献身的に介護をしてくれた長女へ、多めに財産を残してあげたい
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【事例】
80歳女性・Aさん(仮名)には、男女1人ずつ、計2人の子どもがいます。Aさんの夫は10年前に亡くなっています。Aさんが要介護状態になってから、長女は仕事を辞めて身の回りの世話をよくしてくれている一方で、長男は遠方に住んでいるため、たまに顔を出す程度です。
Aさんは、献身的な長女には財産を多く残してあげたいと考えていますが、そのためにはどんな対策を取ればよいのでしょうか?
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一方の子どもが親の近くに住んでいて、もう一方の子どもは遠方に住んでいるとなると、近いほうの子どもが何かと身の回りの世話をすることになるケースは珍しくありません。
仕事を辞めてまで介護をするとなると、長女の家庭にも負担がかかるわけですし、「多めに財産を残してあげたい」と思うのは自然なことでしょう。
Aさんの気持ちを叶えるには、対策を打つことが重要です。
もし「無対策」のまま相続が発生したら、どうなる?
対策の重要性を理解するために、まずは最悪の結末から見ていきましょう。もしAさんが何も対策をせずに亡くなってしまった場合、遺産はどのように分けられるのでしょうか?
Aさんの相続人は長女と長男の計2人、法定相続分はそれぞれ50%です。
ただし長女としては、仕事も辞めたうえで介護をしていますし、やはり「多めに相続したい」という気持ちがあってもおかしくありません(⇒寄与分〔きよぶん〕の主張)。
長男が「介護を頑張ってくれたからね。もちろんそうしよう」と同意してくれれば、特に問題はありません。しかし長男が「法律に従って平等に相続したい」と考えた場合、遺産分割協議がまとまらない可能性があります。
寄与分とは、亡くなった親の家業を無給で手伝っていたり、療養介護を献身的に続けていたりなどの「特別な寄与」をした相続人に対して認められ、寄与者は認められた分だけ多くの財産を相続できるという制度です。
寄与分は遺産分割協議で話し合い、相続人どうしで決めるのが原則です。ただし、相手方の相続人が認めない場合は裁判所上での話し合い(遺産分割調停)に発展し、長期化したり、相続人どうしの関係破綻に繋がったりする可能性も出てきます。
寄与分はあくまで「特別な寄与」ですので、認められるためのハードルはそれなりに高く、通常の介護では難しいと言われています。例えば、本来であればデイサービス等の有料介護サービスを利用すべき状況でも子どもがすべて世話をしていたとなれば、サービスを利用した場合の負担を減らしたとして、寄与分が認められる場合があるかもしれません。しかし「受診のために定期的に送り迎えをしていた」などの場合では、認めてもらうのは難しいかもしれません。
また寄与分を認めるにしても、相続分をどれだけ増やすのかについては、寄与者がいかに貢献したかを証明しなければならないという難しさもあります。
このように、被相続人本人が「長女には多めに残したい」と考えていたとしても、何も対策しないまま亡くなってしまうと、寄与者の貢献が曖昧になる恐れがあり、相続人どうしの話し合いに委ねるしかないので、相続人間の関係が悪くなる可能性もあります。
特定の相続人へ多めに財産を残すには?
では、Aさんが長女へ財産を多めに残すにはどうすればよいのでしょうか。本稿ではその一例を紹介します。
【解決策①】遺言書を作成する
まずは遺言書を作成するという方法です。遺言書の末尾にはメッセージをつけることが可能です。これを「付言(ふげん)」といいます。
元よりAさんは長女に多く残したいという気持ちがあるので、付言にて、その理由を長男が納得のいくようにきちんと伝えるということが重要です。
遺言書の本文(「財産は〇〇にあげる」などの部分)には、「このように書きなさい」という法律的な形式がある一方で、付言には決まった形式がありません。自分の言葉で自由につづれる分、相続人に気持ちを伝えやすくなるでしょう。
遺言書の本文は、筆者たち司法書士や公証役場の公証人などが関与すると法律的にきっちりした文章になるので、無機質なものになりがちです。だからこそ、相続分に差をつけるようなケースでは、気持ちを乗せやすい付言が有効です。
また、付言のように「文字で伝える」以外にも、ビデオメッセージを作成するパターンもあります。これは最近よく見かける方法です。被相続人本人の口からその気持ちを聞けば、より説得力や納得感が生まれるでしょう。遺言書+ビデオメッセージという組み合わせはアリだと思います。
【解決策②】遺留分に注意する
相続分に差をつけるなら「遺留分」にもご注意ください。遺留分とは、最低限もらえる相続分のことであり、これは遺言によっても奪うことはできません。
事例の相続人は子ども2人だけですので、法定相続分は50%ずつ、遺留分は「法定相続分の1/2」になります。よって長男の遺留分は25%です。長女に多めに残すなら、長男の遺留分を確保したほうがよいでしょう。
例えば、もし長女に遺産の8割を与え、残り2割を長男に配分するとなると、長男の遺留分を侵害していることになります。場合によっては、長男が「残りの5%を返してくれ」と長女に対して遺留分侵害請求を行うことも考えられます。
一方の相続分を減らし過ぎると、別の争いを生むきっかけにもなります。相続分に差をつける場合でも、遺留分は確保したほうがよいでしょう。
【解決策③】不動産などの「分割しにくい財産」は、売却換価して分配することも可能
遺留分の確保に関連して覚えておきたいのは、「不動産などの分割するのに困る財産は、売却換価して分配することも可能」だということです。
遺産は自宅と預貯金だけ。割合にすると、自宅が遺産の大部分を占めていて、遺留分の確保が難しい…というケースもあるでしょう(「不動産を共有名義にする」などの選択肢もありますが、後々トラブルになりやすのでおすすめしません)。
不動産のままでは分割が難しいですが、売却してお金に換えれば簡単に分けられるようになります。
「子どもたちは自分の家を持っているし、自分亡きあとの実家は誰も住まないだろう」といった状況であれば、遺言書で売却換価したうえで相続するように書き残すことも有効です。この場合は遺言執行者を選任しておくと便利です。
遺言執行者は売却などの手続きをすべて行うことが可能です。長女や長男などを選任することもできますが、司法書士などのプロを立てれば、「複雑な手続きは専門家にまかせて、相続人たちは相続する分のお金を受け取るだけ」という手筈を整えることができます。売却換価という選択肢と併せて検討するとよいでしょう。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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