中年兄妹+高齢母の〈終の棲家〉に、突然〈お嫁さん〉がやってきた!…居場所を失う妹「出て行きたいけど、出て行けない…」悲惨すぎる状況のワケ

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不動産を「家族みんなのもの」として、共有名義にしているご家族は少なくありません。しかし、時間の経過とともに家族それぞれの事情が変化すると、不動産の共有が、大きなトラブルのタネとなることがあります。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

「大切な不動産、親族みんなのものに…」という過ち

当然ですが、不動産は大切な財産です。そして、そんな大切な財産を「みんなの持ち物」として、共有名義にしているご家族は珍しくありません。

 

不動産が共有名義となるのは、たいてい、不動産の相続時か購入時です。相続人の公平を期すため、分けにくい不動産を相続人たちの共有としたり、不動産の購入時に、家族で資金を出し合うことで、資金の割合に応じて権利を登記したりすることで、不動産が共有状態となります。

 

当初は円満でも、その後、状況の変化や感情の変化などによって意見が合わなくなり、トラブルになることはよくあります。筆者のもとに相談が持ち込まれた時点で、すでに激しく対立し、家族間での話し合いが成立しないところまで来ているケースも多いのです。

 

今回は、不動産の共有にまつわるトラブルについて、2つの典型的なケース例を紹介します。

【事例1】共有のアパートを売りたいが、意見が合わず膠着状態

野村さん(50代)は、父親の死後、母親ときょうだい3人の合計4人でアパートを共有として相続しました。持分の割合は、母親が2分の1、野村さんと2人の弟がそれぞれ6分の1という法定割合です。

 

父親の遺産は自宅とアパート、現預金はごくわずかです。遺言書がなかったことから家族で話し合いを行いましたが、自宅はそこに暮らす母親が相続することは決定したものの、アパートをどうするかがまとまらず、申告期限が迫ったことで、共有状態としました。

 

アパートは自宅よりも評価が高く、父親の財産のなかで一番価値があります。自宅の評価は2,000万円程度でしたが、アパートの評価は4,000万円程度であり、不動産会社からは、売却するなら5,000万円程度だといわれていました。

 

「相続のとき、最初は弟たちもアパートの売却に賛成でした。ところが、母が〈お父さんが遺したものなのに〉といって強く反対したのです。では、だれが相続するのかということで結論が出ず、結局は申告期限が迫ったことで、法定割合で相続したのですが…」

 

しばらく共有状態で運営を続けてきましたが、母親は当初より、家賃を一切子どもたちに分配しません。そのため、名義があっても子どもたちにはメリットがありません。野村さんはそんな共有状態のアパートがわずらわしく、また、自分の子どもたちの進学で現金が必要となったことから、アパートを手放したいと考えています。

 

「母親も年齢を重ね、不安があるのでしょう。お金にひどく固執するようになりました。弟たちは弟たちで、アパートの収益を狙っており、きょうだい関係が緊張しています。私はいまお金が必要なので、自分の持ち分を手放したいのですが…」

 

「それに、もしここで私や弟に万一のことがあったら、さらにめんどくさいことになってしまう…」

 

そういって頭を抱えています。

【事例2】共有の家で暮らすが、家族構成の変化で居心地が最悪に

山田さん(40代)は、父親が亡くなったことをきっかけに実家を売却。その後、母親が2分の1、山田さんと兄がそれぞれ4分の1の割合で資金を出し合い、新しい戸建て住宅を購入しました。

 

「父が亡くなった当時は、兄も私もすでに独身のまま40代になっており、今後も結婚なんてありえないと考えていました。そのため、母親が提案した〈みんなでお金を出して家を買う〉という案に納得したのですが…」

 

 

母親が見つけた5,000万円の築浅物件を山田さんも兄も気に入り、母親が2,500万円の現金で、兄と山田さんはそれぞれローンを借りるかたちで購入し、共有名義としました。

 

ところが数年後、突然兄がおなかの大きい女性を連れてきたことで家族の状況が一変。突然お嫁さんと子どもが家族に加わったことで、山田さんは自分家でありながら、非常に肩身の狭い思いをしています。

 

「兄嫁からは疎ましがられ、母親からは愚痴のはけ口にされ、兄からは子守要員にされ、毎日気の休まる暇もありません…」

 

山田さんは出て行きたいと考えていますが、返済中のローンもあり、新居の家賃を考えると、二の足を踏んでしまいます。

 

 

「母か兄に自分の持ち分を買ってもらいたいのですが、お金を払ってもらえるかどうか…。もしこのまま家を出ても、自分ひとりが損をすることになりそうで、決心がつきません…」

 

山田さんは心底疲れ切った表情です。

「家族なのに?」という気持ちが先立ち…親族間売買は難しい

野村さんも山田さんもそれぞれ事情は違いますが、「不動産の共有」という問題は同じです。いくら家族とはいえ、所有者が複数人いれば意思決定は大変です。

 

野村さんの場合、母親と弟たちの4人で共有していてもメリットがありません。アパートの家賃は入りますが、家賃を受け取っているのは母親で、子どもに分配してくれないからです。

 

本来なら、所有割合によって家賃も按分すべきですが、ひとりが家賃を独占するという使用貸借は、家族間ではよくあることで、母親が税務署に申告・納税していれば、税務的な問題は生じません。

 

しかし、数年にわたりそのような状況であることから、野村さんもそろそろ使える財産にしたいと思うに至りました。野村さんは母親と弟に売却の話を持ちかけたものの、母親も弟も「家族なのにお金を払うなんて…」といって取り合わず、売却の話は実現しません。

 

筆者が野村さんにアドバイスしたのは、野村さんの6分の1の持ち分を、それでも母親か弟に買い取ってもらうことです。時価5,000万円なら、6分の1は833万円となります。

 

山田さんの場合も、気を遣いながら住み続けるよりは、別の場所に住み替えたほうが精神衛生上望ましいでしょう。こちらも、母親か兄に、自分の持ち分である4分の1を買ってもらうことができれば、問題は解決します。

 

しかし、親族へお金を払うことに抵抗感がある人が多く、親族間売買は簡単ではないのです。

不動産共有の解消方法は3つ

不動産の共有を解消する方法としてあげられるのは、

 

①一緒に売る

②共有者が買い取る

③持ち分だけ第三者に売却する

 

という方法です。共有者に贈与する、遺贈するという方法もありますが、それではなにも残らないため、野村さんと山田さんのケースでは選択肢になりません。

 

この3つの方法の中で最も合理的なのは「①一緒に売る」という方法です。親族ではない第三者に売却し、売れた価格を持ち分で按分するため、各自の権利分がお金として入ります。売れる価格は時価となり、合理的で公平な共有解消だといえます。

 

しかし、不動産がなくなる、住む家がなくなるということが最大のネックにもなります。

 

不動産を売りたくない事情があれば、次の選択肢となるのは「②共有者が買い取る」という方法です。このときの買い取り価格の算定が難しいところですが、一般的には流通している時価が税務署に否認されない価格となります。親族だからといって、時価より大幅に安い金額で売買すると、差額が贈与の対象となります。

 

仮に、時価の8割といわれている相続評価で売買すると、野村さんの場合は666万円、山田さんの場合は1,000万円が買取価格の基準となります。

 

しかし、親族間の場合、それだけのまとまったお金を払いたくないといった心情があり、なかなか話がまとまらないのです。野村さんと山田さんが置かれているのは、そういった状況です。

 

「③持ち分だけ第三者に売却する」という方法ですが、所有者が「親族が買わないなら、買ってくれる第三者に売却する!」という心情になれば、最終的にこの選択に踏み切ることになります。近年では、共有持ち分が解消できなくて困っているという人も増えており、それを買い取る専門会社も出てきましたので、本当に困ったら、この選択も致し方ないかもしれません。

 

しかし、ほかの共有者からみれば「他人が一部を所有する」というイレギュラーな状態になるほか、これまで請求されなかった家賃も請求されますし、場合によってはほかの持ち分の買い取りを迫られるなど、家族間での所有にはなかった強い緊張が生じることになります。

 

野村さんも、山田さんも、もう一度家族間で話し合う機会を作ってみるということで、仕切り直すことになりました。

 

当初はベストな判断だと思えた不動産の共有も、時間の経過とともに状況が変われば、感情のすれ違い、緊張、いさかい、そして断絶…と、大きな亀裂が入り、修復不可能な状況にもなりかねません。できる限り共有というかたちは取らないというのが原則であり、それでも共有が必要になるなら、共有を解消する出口までも決めておくことが必須だといえるのです。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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