【家族構成】
仲村 太一(70代)、優香(太一の妻、60代)、長女(既婚・娘2人あり)、次女(既婚・台湾在住)
※すべて仮名
【あらすじ】
東京のベッドタウンに30か所以上の不動産を持つ大地主、仲村家。仲村夫妻は現在、先代が設立した法人で資産管理をしている。仲村家は戦後の農地改革で多くの土地を失っていたため、先代の「土地への執着」は激しく、その生前、仲村夫妻は所有不動産の状況について、詳細な情報を開示されていなかった。
2歳半の孫に土地を「生前贈与」
先代が96歳で亡くなったのは、2018年。太一さん夫妻に1人目の孫が生まれた直後のことだった。
相続税は一度にかかるとその金額は大きい。先代が亡くなったとき、さまざまな工夫をしていたので、想像していたよりも相続税は少なかった。
先代は孫にあたる長女にも土地を贈与した。次女が生まれたとき、先代は産婦人科に足を運び、次の子も女の子だと確認すると、まだ2歳半だった長女に土地の贈与を決めた。
生前贈与については、税理士からこんな意見があったという。
「私はアメリカに行って帰ってきましたが、今の若い人たちは、外国に行ってそのまま帰ってこないことも多いので、あまり若いうちから、お孫さんに贈与はしないほうがいいですよって税理士さんがおっしゃってました」(太一さん)
税理士の意見も一理ある。海外のほうが暮らしやすいという人も少なくない。
ふつうの家庭なら海外で暮らすのもかまわないだろう。しかし地主の家はふつうの家ではない。
地主家庭の跡継ぎには、将来的に海外で暮らすという選択肢はない。地主家庭の長男には、そんな心配のないように、帝王学ではないが、地主としての教育をしていくべきではないかと私は考えている。
先代の逝去まですべての財産を把握しきれず
太一さんは、しばらく会社勤めと地主としての仕事を両立していた。2013年頃に定年退職するまで、不動産は主に先代が管理していた。
退職後は、太一さんも先代とともに管理に注力したが、すべての財産を把握していたわけではなかった。相続したときに、知らなかった不動産が多々あった。
「いざ相続する段階になって、あっ、ここにもあったんだ、と土地がたくさん出てきました。ふだんは活用していなかったことからお金が動いていないので、知らなかったんですね」(太一さん)
優香さんは6年の間、仲村家の会社の帳簿をつけていたが、先代はすべての取引を見せてくれたわけではなかった。銀行の振込の類は一切見せてくれなかった。
「すべてが会計事務所まかせで、何年に何を贈与したかなど、帳簿付けをしていた私もわかりませんでした。所得申告は、私たちはほぼノータッチでした。
戦争経験のある義父は、どうしても、握って放したがらなかったんです。そのため、固定資産税ばかり払っていたんです。内容を確認しないので、数字が合っていなかったり、2回払うこともありました。払い過ぎたり、未払いがあったりしていました」(優香さん)
優香さんが「使っていないのに税金を多く払っているのはおかしい。もっと調査するべきだ」と指摘したこともあったが、義父は「税務署から何も指摘がないんだからそのままでいい」と言って、役所への問い合わせもしなかった。
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