(※写真はイメージです/PIXTA)

先祖代々受け継いだ土地や建物などの資産で、何もしなくても家賃収入を得て楽に暮らしている、と世間からは思われがちな「地主」たち。しかし、実際のところは、多額の相続税や銀行の都合に振り回され、苦汁を飲まされるケースもあります。地主専門の資産防衛コンサルタント業に従事する松本隆宏氏の著書『地主の真実』より、令和時代の地主たちが抱える深刻な問題を、具体的な事例をもとに見ていきましょう。

【家族構成】

父(先代)、母、万里江(娘)、横井さん(娘の夫)

※すべて仮名

「起こってからではもう遅い」相続税対策

万里江さんの父、つまり先代が亡くなったのは平成から令和になる平成312月。81歳だった。

 

以前から具合が悪そうだったので家族は通院をすすめていたが、

 

「頑固な性格で『俺は仕事があるから入院できねえんだ』って、絶対に入院してくれなくて。本当に体調がよくない、という日に、母と一緒に病院に行ったら、即入院。それから丸2日で亡くなってしまいました」(万里江さん)

 

急性腎炎だった。突然のことに皆が驚いた。

 

「まず困ったのは、家の資産や会社の資産を、誰も100%は把握できていなかった、ということです」(万里江さん)

 

先代が亡くなる数年前から、一人娘である万里江さんは事務作業を手伝っていた。最低限の現状維持はできるようにはなっていたが、所有している土地の全体像は完全に把握できていなかった。まして、担保や権利がどうなっているかなどわからないことだらけだった。

 

相続税対策をする前に、親が亡くなってしまった

万里江さんと私は数年前に知人の紹介でお会いしていたが、先代が亡くなった直後に、万里江さんから私にご連絡をいただいた。

 

「父が存命のときからお願いしていたら違ったと思うんですが、父は『俺がやるんだ、お前は心配するな』と頑固な人だったので、たぶん話を聞かないなと思って、そのときはお願いできないでいました」(万里江さん)

 

先代の生前であれば、不動産を買ったり、既存の土地を活用したり、いろいろな対策は考えられた。

 

多額の相続税で、事業が傾いてしまうパターンも

先代が多額のキャッシュを残したのは、自身が相続税に苦しめられた経験からだろうと万里江さんは言う。

 

「父の両親、私から見ると祖父と祖母は、4か月違いで亡くなっているんです。祖父が2月で、祖母が6月。半年以内に2人分の相続税がドカンと来たので払いきれず、土地を担保に10年ローンを組んだ、と聞きました」

 

その返済がとても重かったという。先代は必死になって返済し、10年ローンを7年で完済した。

 

「父はご先祖様から受け継いだ土地は絶対に売らない、と決めていました。ローンの終わりが見えてきたら、もう全部完済するぞ! とドカッと完済して。完済直後は銀行に100万円も残っていなかったそうです」(万里江さん)

 

万里江さんの実家の手持ちは一時的に尽きたが、その後は不動産収入が入ってくるばかりになった。

 

「相続税で事業が傾いてしまう地主さんもいらっしゃると思います」(横井さん)

 

万里江さんの夫である横井さんがそう言うように、地主にとって相続税は大きな打撃となる。

 

しかし相続が発生したあとでは、できることはほぼない

 

運よく払えたが、相続税対策の必要性を万里江さん夫妻は痛感した。

 

現在、先代の妻である万里江さんのお母さんの相続税対策をしており、おそらく何もしなければ数億円になるであろう相続税の節税も、ここ数年の取り組みにより大幅に軽減できている。

 

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※本連載は松本 隆宏氏による著書『地主の真実』(マネジメント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

地主の真実

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松本 隆宏

マネジメント社

世間一般にイメージと違う地主の真の姿を明らかにし、どのような問題をかかえ、どのように解決し資産防衛してきたかを著者=「地主の参謀」がレポートした。

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