普通の国債は「固定金利」なのだが…
国債というのは、国が発行している借用証書です。銀行の定期預金のようなものです。プロ用のものは途中解約できない代わりに途中で売却できるのですが、個人向けの国債は途中で解約できるので、銀行の定期預金とほとんど同じだと考えてよいでしょう。
銀行は倒産するリスクがあります。1,000万円までの預金は銀行が倒産しても政府が代わりに払い戻してくれますから、庶民は心配する必要はありませんが、多額の預金を持っている人は国債の方が安心かもしれません。それから、金利も銀行の定期預金より国債の方が少し高い場合が多いようです。
普通の国債は最初の段階で満期までの金利がすべて決まります。これを固定金利と呼びます。例外は、後述の個人向け国債10年物と物価連動国債です。
国債の期間は様々ですが、固定金利は「将来予想される短期金利の平均」になるのが基本です。投資家たちは「長期国債を買うか、短期国債を買って満期時に新しい短期国債を買うか」考えて、得になりそうな方を選びます。したがって、投資家たちが今後の短期金利が今より高いと予想している場合には「長期国債の金利がよほど高ければ買うが、そうでなければ短期国債を買っておこう」と考えるので、長期金利は高くなるのです。
「個人向け国債10年物」は、変動金利で元本保証
個人向けの国債には、3年物、5年物、10年物があります。3年物と5年物は固定金利ですが、10年物は変動金利です。半年ごとに、「半年後の利払い日には、今日の長期金利の0.66倍の金利を使って計算した金額を金利として支払う」というものです。
長期金利という言葉は、プロ向け国債10年物の利回りのことを指す場合が多く、本稿でもそれにならっています。0.66倍というのは不思議な感じもしますが、長期金利の方が短期金利より高い場合が多いので、気にする必要は無いでしょう。
日銀が短期金利を引き上げるまでには未だしばらく時間がかかりそうですが、長期金利は今後10年間の予想短期金利を反映するため、すでにプラスになっています。つまり、短期国債を買っても金利はほとんど貰えないのに、個人向け国債10年物を買うとすぐに金利がもらえるのです。
ちなみに2023年12月発行の10年物個人向け国債は、最初の半年間の分として、長期金利0.7%の0.66倍である0.46%も金利が付きます(税引き前)。
今後についても、少子高齢化による労働力不足で賃金が上昇し、それが売値に転嫁されてインフレになり、短期金利が上昇していく可能性を考えると、長期金利も上昇していくでしょうから、インフレへの備えとしての心強い味方と言えそうです。
筆者は「銀行預金は、インフレが来ると目減りする(買えるものが減ってしまう)リスク資産だから、インフレに強い株や外貨も持っておこう」と言っています。さまざまなものに老後資金を分けておくと、なにか起きても悲惨な老後に陥るリスクは小さくなりますから、分散投資を心がける、というのが筆者の考え方の基本なのです。
しかし、株や外貨は値下がりリスクがあるから持ちたくない、という人も多いですね。そうした人は、値下がりリスクがないうえにインフレに強い資産として、個人向け国債10年物を検討してみてはいかがでしょうか。
ちなみに、発行から1年間は換金できず、中途で換金すると過去1年分の金利を返還する必要がありますが、受け取ったものを返還するだけで、損をするわけではないので、心配は無用です。
最強のインフレ対策としての「物価連動国債」
筆者が最強のインフレ対策だと考えているのは、物価連動国債です。金利はほとんど付きませんが、満期日までにインフレになっていれば、その分だけ多くの金額を満期日に受け取れる、という国債です。
南海トラフ大地震が来たら、あらゆる物が不足しますから物価が高騰するはずです。たとえば物価が5倍になったら、老後資金を2,000万円持っていてもまったく足りないでしょうが、物価連動国債を2,000万円持っていれば、満期日に1億円もらえるので、物価が5倍になっても老後の生活には困りません。
筆者の取引している証券会社によると、最低取引単位が1,000万円なので、現役の社員には手が出しづらいかもしれませんが、退職金を受け取っても仕事を続け、退職金にはしばらく手をつけないという人は、老後資金がインフレで目減りしないように物価連動国債を持っておくというのも選択肢でしょう。
物価連動国債は、場合によっては額面1,000万円のものが1,050万円で売っていたりするわけです。その場合、インフレが来なければ満期には1,000万円しか戻ってこないために、差額の50万円は損をしてしまいますが、南海トラフ大地震が来た場合に備えての保険料だと考えれば、安いものでしょう。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。
なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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