保険は「確率的には損な取引」というのが大前提
心配性の日本人が大好きな「保険」。保険の「顧客全員が支払った保険料」と「受け取った保険金」を比較した場合、前者のほうが大きくなることは容易にわかると思います。差額は保険会社のコストと利益です。つまり、保険に加入するのは確率的には損な取引です。これを「期待値がマイナスだ」といいます。
しかし、期待値がマイナスであっても、加入すべき保険は多数あります。たとえば専業主婦(専業主夫)と乳飲み子を養っている一家の大黒柱は、生命保険に加入すべきです。自分に万一のことがあったときに、家族が路頭に迷うのは避けたいですから。
また、たとえば自動車を運転するときは、保険に加入すべきです。保険に加入せずに運転した場合、万が一大事故を引き起こし、億円単位の損害賠償を求められたら悲惨ですから。
ですが、必要のない保険なら、期待値がマイナスなので加入すべきではないでしょう。生命保険会社のコストと利益を負担したいという人は稀でしょうから。
法則1:高齢者に生命保険は必要ない
定年退職後の元サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)は生命保険に加入する必要はありません。自分が死んでも残された家族は悲しむでしょうが、経済的に困窮することは考えにくいからです。退職金を相続し、場合によって遺族年金も受け取れるので、遺族が悲惨な目に遭う可能性は小さいのです。
それなら、生命保険の保険料を支払う代わりに同額を預金しておいたほうが家族は喜ぶのではないでしょうか。「生命保険は配偶者への愛情の証だ」などというのであれば、代わりに「銀行預金は配偶者への愛情の証だ」といいましょう(笑)。
法則2:独身や共働きに生命保険は必要ない
新入社員に「一人前の社会人になったのだから、生命保険くらい加入しないと…」といった勧誘がなされることがあるようです。一人前の社会人であることと生命保険に加入することの関係は、よく考えるとまったくわかりませんが(笑)。
独身の新入社員が万が一死亡しても、悲しむ人はいるでしょうが、生活に行き詰まる人はいないでしょう。それなら、新入社員は生命保険に加入する必要はありません。支払うはずだった保険料は銀行に貯金するか、自分への投資に使いましょう。
夫婦ともに正社員である場合にも、生命保険は不要でしょう。どちらかが万が一死んだとしても、配偶者が生活できずに路頭に迷うということにはならないからです。
法則3:医療保険に入る前に、健康保険の知識を持つべき
医療保険に加入している人も多いようです。重い病にかかって治療費が嵩むリスクに備えようということでしょうが、それが心配なら、医療保険に加入する前に加入していう健康保険にいて調べてみましょう。
健康保険には「高額療養費制度」があり、医療費が高額になった場合でも、一定の自己負担額を上回る部分については健康保険組合から払い戻しがあるので、治療費で生活が破綻することはないはずです。
健康保険が適用されない先端医療を受けたいとか、差額ベッドを使いたいとかいう場合は別ですが、普通の医療を受けるだけなら、医療保険は不要でしょう。
火災保険さえも不要な場合がある!?
自宅が火事になったときに備えて、火災保険に加入している人も多いでしょう。しかし、それさえも不要な場合があると思います。親から相続した古家が空き家になっていて、万が一の場合にはそこに住む覚悟ができている場合や、遠くの小さなアパートに住む覚悟ができている場合などです。
また、富裕層で「家が焼けたら貯金の一部を使って家を建て直せばいい」と考えられるなら、火災保険は不要ですね。
とはいえ、解約するとモッタイナイこともある
以上、保険に加入すべきか否かを論じてきましたが、すでに加入している保険が不要だと感じるようになった場合でも、解約すると戻ってくる金額が小さくなる場合も結構あるようです。
その場合は保険会社に、
「今後は保険料を支払わない。すでに払った保険料だけであれば、万が一の場合の保険金が減額されることは理解しているので、よろしくお願いします」
と、相談してみましょう。保険の条件変更に応じてくれる場合も多いでしょう。
上級庶民程度なら、相続対策のほうが相続税より高くつくことも
生命保険の保険金は、法定相続人1人あたり500万円まで相続税が非課税です。したがって、節税目的で生命保険への加入を勧められる場合もあるでしょう。
ただ、相続税の税率が「上級庶民程度」であれば大したことはありません。節税目的で生命保険に加入して、保険会社のコストと利益を負担することが得になるか否か、慎重に検討すべきだといえるでしょう。
大金持ちは相続税率が高いので、非課税は魅力ですが、しかし、大金持ちは500万円ていどでは、興味がもてないかもしれませんね(笑)。
本稿は以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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