いまの日本で「貸家を持つ」のはリスクが高い
資産運用目的で貸家を取得する人は多いようです。家賃収入を物件取得価格で割ると、数%の利回りになる場合も多く、銀行預金より遥かに有利だ、ということが魅力なようです。もっとも、借り手が代わるたびに壁紙を張り替えたり新しい借り手を探したりするコストがかかるなど、それほど簡単に儲かるわけではなさそうです。
筆者がそれ以上に重視しているのは、貸家を持つことのリスクです。少子高齢化時代ですから、借家に住む人は減っていきます。とくに、新しく借家に住もうというのは結婚や就職等が契機となる場合が多いので、少子化や晩婚化等が進んでいるということは、空き家のリスク、家賃相場低下のリスクが高いと考えたほうがよいでしょう。
「30年間家賃を保証します」という業者もいるようですが、現在の家賃水準が30年間支払われるとは限りません。周辺の家賃相場が下がれば支払われる金額が減っていく契約になっている場合も多いからです。
自宅を持っている人が貸家も持つとすると、資産全体に占める不動産の割合が高くなりすぎる可能性が高いでしょう。資産は不動産、預金、株、外貨等々にバランスよく振り分けておいた方がリスクを避けるという意味では好ましいわけで、資産が不動産に偏りすぎるのは筆者としてはお勧めしにくいですね。
相続税対策として貸家を持つ、という人もいるようですが、上級庶民程度であれば、相続税率はそれほど高くありません。節税のメリットよりも貸家保有のコストとリスクのほうが大きいかもしれませんので、慎重な検討が必要でしょう。
もっとも、読者が大金持ちである場合には、相続税率が高いので、節税のメリットは大きいでしょう。自宅以外に貸家を持っても全財産に占める不動産の比率が高くなりすぎないかもしれず、貸家保有も選択肢として検討してもいいかもしれませんね。
貸家より「REIT」のほうが、コストもリスクも小
上記にかかわらず、貸家を持ちたいという人には、「貸家よりはREITの方がマシだ」ということをお伝えしたいと思います。REITというのは、不動産の投資信託です。普通の投資信託は、投資家から集めた資金で株を買い、儲かっても損してもそのまま(手数料を差し引いて)投資家に返還する、というものですが、REITは株の代わりに賃貸不動産を買う、というわけです。
株は100万株買っても安く買えるわけではありませんが、不動産はたとえばマンションを一棟丸ごと買う(または建てる)ことで、募集や宣伝のコスト等が不要になるので割安に取得できます。個人がマンションを買うときには、宣伝等の費用が上乗せされた価格を支払うわけですが、REITであればその分の上乗せがありませんから。
壁紙の張り替え業者との交渉、借家人との家賃交渉、住民のトラブルの処理等々についても、個人が自分でやるよりもプロが管理する方が効率がよいでしょう。
それ以前に、物件を選ぶ目利き力も重要です。上場株はサイコロを振って銘柄を選んでもプロが選んでもそれほど変わりませんが、不動産は目利き力が重要ですから。
また、数多くの不動産を少しずつ持つのと同様の効果がありますから、リスク分散になります。個人の不動産投資は、よく知っている地域の物件を選びたいのが普通でしょうが、それだと自宅近くの物件になってしまい、災害や地域衰退等のリスクが分散できません。その点、REITであれば全国各地の不動産にリスクが分散できるでしょう。
住宅購入資金を「REITで運用する」というワザ
自宅を持っている人がREITを買うのは、資産に占める不動産関連のウエイトが高くなり過ぎる場合が多いので、あまりお勧めしませんが、これから自宅を買おうと考えている人にはお勧めです。
住宅の価格が上がるか下がるかを予想するのは容易ではありませんから、本来であれば資金が貯まるたびに住宅を100分の1ずつ買いたいところですが、それは不可能です。しかし、REITであれば、自分が購入するであろう自宅の価格とある程度連動しますので、それと似たような効果を享受することが可能です。つまり、リスクを避けるために住宅取得資金でREITを買っておくのです。
住宅を買うためには頭金等を貯める必要がありますから、必要額が貯まるまでの間、資金をREITにしておくのです。銀行預金にしておくと、住宅価格が上昇するリスクがあります。貯めても貯めても必要な頭金の金額が増えてしまい、いつまでも自宅が買えない、というリスクです。
住宅購入資金をREITで持っていれば、住宅価格が上がるときにはREITも値上がりするでしょうから、住宅購入資金も増えるでしょう。
反対に、住宅価格が値下がりするときにはREITも値下がりしてしまいますが、住宅購入のための必要資金が減るわけですから、住宅購入が難しくなるということはないでしょう。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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