現代の豊かさを支える「蓄積」の正体
「生産力は重要や。設備や生産技術の蓄積がなければ、何も作られへん。せやけど、それだけやない。僕らの暮らしを支えるものには、他の蓄積もある。想像してみたらええわ。黒船を見て驚いとった江戸時代の暮らしと比べて、何が変わったかを」
変わったことだらけだと優斗は思う。ちょんまげ姿の侍が今の時代にタイムスリップしてきたら、驚きの連続に違いない。みんながのぞき込んでいる薄い板なんて理解不能だろう。
「スマホなんてやばいですよね。写真撮れたり、ゲームしたり、地図でもなんでも調べられるし。車とか新幹線とか、乗り物も相当便利になっていますよね」
「それに」と、七海がつけ加える。
「制度のように、形がないものもありますよね。教育制度や医療制度なども格段に私たちの生活を変えました」
ボスは満足そうに2人の答えを聞いていた。
「君らの言うとおりや。物を作る生産力の他にも、いわゆるインフラと呼ばれる社会基盤が蓄積されてきた。インターネット、道路や鉄道の交通網、電気や水道、学校や病院なんかがそうやな。そして、制度やルールも僕らの生活には必要や。これらすべて、昔の人たちが考えて手を動かして蓄積してきたものや。昔からの莫大な蓄積が今の豊かな暮らしを作っているんや」
堂本が細い目を光らせる。
「アフリカにもこうした蓄積が必要なんすよ。学校に行ける子も病院に行ける子も一部なんすよ。設備も制度も不十分ですし。日本で生活の豊かさの話になると、給料が増えないとか、すぐお金の話になりますけど、違和感あるんすよね」
事業の利益で現地の学校支援もしていると話す堂本が、アフリカの動画を見せてくれた。
ノートパソコンのスクリーンにアフリカの小学校の風景が映し出される。画面の中央には手作りの長机が並び、ぎゅうぎゅうになって座る子どもたちの笑顔があふれていた。
堂本の手がマウスをクリックすると次の動画が始まった。校舎の外の様子が見える。子どもたちが歌に合わせて踊っていて、何羽もいる鶏がカメラに向かって飛び跳ねていた。
その小学校での生活は日本よりも不便そうだ。だけど、子どもたちの目は希望に満ちていた。そして、動画にいっしょに映る堂本の生き生きとした顔が、優斗には印象的だった。
段ボールの積み上がったその部屋で、未来を作ろうとしている堂本の強い意志と情熱に、優斗の心は揺さぶられた。
田内 学
お金の向こう研究所
代表
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