放置された空き家が、近隣に損害をもたらすことに
神奈川県在住の60代男性の自宅と自家用車が、台風によって飛散した隣地の空き地の屋根によって被害を受けた。住宅は南側リビングの窓ガラスの破損、自家用車は助手席側のドアの著しいへこみとフロントガラスの破損。合計で数十万円の修繕費用が発生したが、どこに請求すればいいのか連絡先がわからないということで、筆者のところに相談があった。
被害を受けたのはこの男性の住宅以外に2軒。外壁のへこみやフェンスなどの破損で、いずれも数万円~十数万円の損害になる見通し。
相談者の男性の話によると、空き家となっている住宅には10年ぐらい前まで高齢女性がひとりで暮らしていたが、ほとんど付き合いはなかった。おそらく所有者と思われるその女性は亡くなったと思われ、以降は空き家状態となり、人が出入りしているのは見たことがないという。
隣地との境界部分には樹木はないため、枝等の侵入はないが、雑草が茂っており、相談者の男性がたまに自宅の草刈りのついでに善意で刈り取ることもあった。
空き家の老朽化も進んでいることから、相続人に対応を求めたいと考えているという。
相続人不在なら、泣き寝入りになる場合も多い
子どものいない親族の死で、相続人たちが大変な思いをするケースも増えていますが(記事『子のない叔父の遺産は、遠方・過疎地の〈山林・畑・ボロ住宅〉…横浜在住の相続人12人、壮絶な押し付け合いの地獄絵図』参照)、今回の相談事例のように、所有者不明の老朽化した不動産により、近隣の生活が脅かされるといったケースも増加しています。
老朽化した建物が台風等によって破損し、近隣に迷惑をかけた場合、本来であれば相続人が賠償責任を負うことになります。しかし、元凶となった家の相続人が何十人もいる場合、結局誰に請求していいのかわからず、被害を受けた側が泣き寝入りをする羽目になることもあるのです。
誰かしら相続人がいる場合には、その人に「払ってください」と請求するかたちになるのですが、今回のケースでは、相続人が相続放棄していたり、夜逃げしていたりなどの背景があり、請求先がない状態でした。
このような「責任を取るべき相続人が誰もいない」ケースを解決するには、裁判所に持ち込み、所有者不明土地管理制度を使って管理してもらう方法もありますが、費用面から割に合わないケースも少なくありません。
今回の相談者の方も、裁判所に持ち込むには費用面が合わなかったため、残念ながら、やむなく「悔し泣き」「泣き寝入り」となってしまいました。
また逆に、老朽化した物件をすでに相続放棄している方から「老朽化した不動産が原因で被害を被ったといわれているが、責任はあるのか?」といった相談を受けることもあります。この場合は責任は問われませんが※、そのような不動産がそこかしこに点在しているというのは、本当に悩ましい問題です。
※ 以前は、相続放棄を行っても無条件に管理責任を問われていましたが、法改正後は、同居しているなど占有している事情がなければ管理責任を問われないように法改正されました。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
空き家に関心を持つ外国人…近隣トラブルのかたちも変化する!?
ただ一方で、これまで打ち捨てられていた日本の空き家が、外国人の注目を集めているという、興味深い動きもあります。日本に関心を持つ外国人が、地方都市にほぼタダ~超低価格な不動産がたくさんあると知り、購入への意欲を見せているのです。
所有者のない不動産が、管理・活用されるというよい面もある一方で、文化的な摩擦による近隣紛争の発生にも注意が必要ではないでしょうか。
かつての「ムラ社会」的な文化が色濃く残っていた時代は、多少の問題が起きたとしても、地域のコミュニティを通じ、話し合いや譲り合いでマイルドに乗り切ってきた部分がありました。
しかし、そのようなコミュニティが消失し、現代社会の価値観が持ち込まれると、双方の主張が真っ向からぶつかり合うことが増え、シビアな対応がスタンダートになっていきます。「自分が主張しなければ損をする」という状況になれば、摩擦が増えるのは当然ですし、近隣トラブルもこれまで以上に激化するリスクが高まるでしょう。
日本のタワマンも外国人がずいぶん多く購入・入居しており、それに伴う近隣トラブルもしばしば報道されていますが、都心部一等地のごく限られたエリアだけでなく、郊外の一般の住宅から地方都市にまでその状況が伝播していくとしたら、従来の価値観をアップデートしないと、自分の財産も、安定的な住環境も維持できなくなる懸念があるといえます。
(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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