母親の介護を引き受けた結果、仕事も婚約者も失い…
70代で亡くなった母親の相続について、相続人である2人姉妹がトラブルになっている。相談者は二女。
父親は10年前に亡くなり、その際の相続では母親がすべての遺産を相続した。1人暮らしをしていた母親は年齢から次第に体が弱り、日常生活のサポートが必要となったが、結婚して他県に暮らす姉は自身の家庭が多忙であることを理由にサポートを拒否。そのため、IT企業の契約社員で婚約者と同居していた二女が一時的に同居を解消し、母親が暮らす実家に戻った。
母親の資産は父親から相続した自宅不動産およそ3,000万円程度と、預貯金1,000万円程度。遺族年金が14万円あったことから、二女は介護負担を考え、自宅を売却して母には施設に入所するよう提案。ところが、母親と姉の2人から激しい反発があり、断念。結果として、二女は仕事が継続できなくなり、離職することになった。
5年後、母親は死去。その間に、婚約者からの申し出で婚約解消。そのような経緯があるなか、姉妹で遺産分割についてトラブルになった。
長女の言い分は、
●長女の自分が自宅不動産を相続する。二女は現金を相続してほしい。
二女の言い分は、
●現金は実家のリフォームと母親の生活費に使い、残っていない。むしろ二女の貯金も一部つぎ込むなど、マイナスになっている。
●母親の介護のために離職し、自分の預貯金も減らし、ついには婚約解消となってしまったことに憤りを感じている。自宅を売却して換金し、1円でも多く自分が相続したい。
というものだった。
しかし、双方の言い分がぶつかると、長女は二女による母親の預貯金の使い込みを疑い、追及。激しい言い争いに発展し、膠着状態となってしまった。
遺言書もなく、口頭での主張では遺産分割への配慮は「望み薄」
このようなケースは、相続トラブルの相談例としても枚挙にいとまがなく、ある意味典型的なものであるといえます。
本件で問題となるのが、家の名義です。二女の方が母親の介護のために同居し、世話をするなかで、多くの時間と労力、そして自分のお金までも使っていますが、家の名義は母親のままなので、母親が亡くなれば、介護に一切の手出しをしなかった姉にも、同等の相続権が生じます。
筆者が二女の方からお金の流れについて伺ったところ、1階リビングのバリアフリーと水回り全体、玄関から門までのアプローチの段差を解消する工事、一部の屋根部分の補修で、母親の預貯金の1,000万円は、ほぼ使い切ってしまったとのことでした。
そのほかにも、老朽化したエアコンと洗濯機の買い替え、日常におけるタクシーの利用、母親が食べたがるものなどを購入するなどして、二女の方の預貯金も、じわじわと減っていったといいます。
当初、持病の状況から、介護生活は長くて2年との見通しを立てており、それなら働きながら乗り切れるだろうと思ったそうですが、結果は予想と異なるものとなってしまいました。
さらに悪いことに、介護に追われて書類整理が追い付かず、工事関連の領収書や、日々の生活に伴うレシートなども散逸してしまったのです。
長女はお金の流れの不明確な部分を追及し、二女が母親のお金を使い込んだ挙句、年金も自由に使ったとして激怒しており、話し合いが不可能な状況となりました。
二女の方が弊所に相談したことで、弁護士を交えた話し合いが行われました。結論から申し上げると、長女の方が折れるかたちで、自宅は売却して分割することとなり、200万円ほど多く二女の方が受け取ることで着地しました。
しかし、今回二女の方は、母親の介護に伴い離職したうえ、婚約者とも別れることになってしまいましたが、この点を十分に反映できなかったことは後悔が残ります。
母親の介護との因果関係を証明することがむずかしく、その点を遺産分割に反映するのは、法的にもハードルが高いからです。
「母が大変」「助けなければ」という思いと、周囲からの「身軽なあなたがやらなくてどうする」という圧力に押され、自宅に戻るという決断をしてしまいました。
自宅へ戻るべきではなかったと後悔していますが、当時はそれがわかりませんでした。
契約社員でしたが、正社員登用の可能性もあり、何より、当時の婚約者とも別れることなく、結婚していたのではと思います。
相談者の方は、そのようにおっしゃっていました。
介護と相続の問題は、親族間でしっかりと話し合っておかないと、あとでトラブルになる可能性が極めて高いといえます。ましてや、今回のケースのように、1人に負担が偏るような状態を放置するのは問題なのです。
(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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