配偶者亡きあとの年金、「4分の3」もらえるんじゃなかったの!? 遺族年金の〈リアルな支給額〉に衝撃【特定社労士が助言】

配偶者亡きあとの年金、「4分の3」もらえるんじゃなかったの!? 遺族年金の〈リアルな支給額〉に衝撃【特定社労士が助言】
(※写真はイメージです/PIXTA)

遺族年金にはさまざまな誤解があります。その筆頭が「配偶者が亡くなるとその収入の4分の3を年金でカバーできる」という解釈ですが、実際に支給される額はそれほど多くありません。遺族年金のよくある誤解とその真相、支給額の計算方法、配偶者に先立たれた場合に困らないための「備え」について、特定社会保険労務士・鈴木教大氏が解説します。

遺族年金とは?

遺族年金とは、社会保障制度の一環として、亡くなった被保険者の配偶者や子供など遺族に支給される年金のことです。この制度は遺族の経済的な支援を目的としており、亡くなった人が国民年金や厚生年金に加入していた場合に適用されます。遺族年金は、遺族の生活保護と社会的保障を図るための重要な役割を果たしています。

遺族年金のよくある誤解

遺族年金に関してよくある誤解の一つに、「配偶者が亡くなるとその収入の4分の3を年金でカバーできる」というものがあります。多くの人がこの誤解を持っており、亡くなった後の経済的な影響が比較的小さいと考えがちですが、実際のところ遺族年金の額はそこまで多くはありません。遺族年金に関する誤解は多岐にわたりますが、特に理解されにくい部分をいくつか詳しく説明します。

 

①支給額の誤解

⇒多くの人が遺族年金の支給額について誤解していることがあります。具体的には、「配偶者が亡くなったら、亡くなった人の給料のほぼ同額を年金で受け取れる」と思っている人が多いです。しかし、遺族年金の基本的な計算方法は、亡くなった被保険者の過去の収入や支払った保険料、加入期間などに基づいており、一般的には亡くなった人の収入の約50%から60%程度が支給されるのが一般的です。このため、亡くなった人の収入がすべて遺族に引き継がれるわけではありません。

 

②自動的に受け取れるという誤解

⇒遺族年金は、自動的に支給されるわけではありません。遺族が適切な申請を行い、必要な手続きを完了させる必要があります。申請が遅れた場合、遡っての支給は認められる期間にも限りがありますので、手続きは迅速に行うことが重要です。

 

③すべての遺族が受給できるという誤解

⇒遺族年金の支給対象となるのは、亡くなった被保険者の配偶者や子供、場合によっては父母など限られた遺族です。すべての親族が遺族年金を受け取れるわけではなく、受給資格や条件が厳格に定められています。特に子供の場合、一定の年齢や学生であることなどの条件が必要です。

 

④遺族年金が永久に続くという誤解

⇒遺族年金の支給は、受給者の状況によって変わることがあります。例えば、寡婦(未再婚の女性)の遺族年金は、再婚や一定の収入を超えた場合には停止されることがあります。子供に関しても、一定の年齢に達するか、結婚すると支給が終了します。

遺族年金、本当はいくら?支給額の計算方法

遺族年金の額は、亡くなった人の収入や加入していた年金制度、遺族の状況によって異なります。一般的には、亡くなった被保険者の平均的な月収の約50%程度が遺族年金として支給されることが多いです。しかし、これはあくまで一例であり、具体的な計算は個々のケースによって異なります。

 

遺族年金の支給額を計算する際には、いくつかの要素が考慮されます。具体的な金額は被保険者の収入レベル、加入期間、家族構成などによって異なりますが、基本的な計算方法を以下に詳しく説明します。

 

<基礎となる計算方法>

遺族年金は、主に以下の二つのタイプがあります。

 

●遺族基礎年金:国民年金の第一号被保険者(自営業者、フリーランサーなど)または第二号被保険者(会社員など)の配偶者が亡くなった場合、その配偶者や子供に支給されます。支給額は一律で、2024年度の基準で年間約779,300円ですが、これは生活保護の水準や物価等により毎年見直される可能性があります。

 

●遺族厚生年金:厚生年金保険の被保険者が亡くなった場合に、その配偶者や子供、場合によっては父母に支給される年金です。この金額は、亡くなった被保険者の平均標準報酬月額と加入期間に基づいて計算されます。

 

<遺族厚生年金の計算例>

遺族厚生年金の計算式は以下の通りです:

 

遺族厚生年金の年金額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額となります。

 

65歳以上で老齢厚生(退職共済)年金を受け取る権利がある方が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生(退職共済)年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高い方の額が遺族厚生年金の額となります。

 

65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある方は、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。

 

<加算と減額の要因>

遺族厚生年金には、子供がいる場合などに子供1人につき加算がされます。また、受給者が一定の収入以上を得ている場合には、その収入に応じて年金が減額されることがあります。

 

<支給開始と終了>

遺族年金の支給は、被保険者の死亡を確認した日の翌日から始まります。支給は配偶者が死亡するまで続きます。

「配偶者に先立たれたときの生活リスク」に備えるには?

日本の平均寿命は延び続けており、高齢化が進む中での健康管理が重要視されています。しかし、年代ごとの死亡リスクも忘れてはなりません。特に中高年層では、がんや心臓病などのリスクが増加し、突然の事態に備えることが必要です。

 

配偶者に先立たれるというのは、精神的にも経済的にも大きな打撃となります。特に経済的な面での準備が不十分な場合、生活の質が著しく下がるリスクがあります。そうしたリスクに備えるためには、次のような戦略が考えられます。

 

①生命保険の活用

⇒生命保険は、配偶者が亡くなった際に経済的な保障を提供する重要な手段です。適切な保険を選ぶことで、死亡保険金が遺族の生活資金として役立ちます。保険の種類や契約内容によって支払われる金額や条件は異なるため、配偶者の健康状態、年齢、家族構成を考慮して最適なプランを選ぶことが重要です。

 

②緊急貯金の確保

⇒予期せぬ事態に備え、緊急時の貯金を確保しておくことも重要です。一般的には、少なくとも6ヵ月分の生活費を涵養できる額を緊急貯金として持っておくことが推奨されています。この資金は、予期せぬ出費や収入が途絶えた際に生活を維持するために使用します。

 

③投資と資産形成

⇒長期的な視点での資産形成も大切です。株式や債券、不動産投資など、様々な投資手段を活用して資産を増やすことができます。リスクの高い投資は大きなリターンが期待できますが、自身のリスク許容度と将来の計画に基づいて慎重に選ぶ必要があります。

 

④退職金の管理

⇒もし配偶者が退職金を受け取る可能性がある場合、その管理計画も立てておくべきです。退職金は一時的な大金となるため、それをどのように管理・運用するかが重要になります。退職金を長期的な収入源に変えるための計画を事前に考えておくことが賢明です。

 

⑤法的文書の整備

⇒遺言書や成年後見人に関する法的な文書を整えておくことも大切です。これにより、資産の承継や法的な問題が発生した際にスムーズに対応できます。

 

これらの準備を行うことで、配偶者に先立たれた際に生じる可能性のある経済的なリスクを軽減することができます。早めに準備を始めることで、将来的な不安から解放され、精神的な安定を保つことにもつながります。

 

このように遺族年金制度は、遺族の経済的な支えとして非常に重要なものですが、それだけに依存することなく、自身でのリスク管理や資産形成も同時に行うことが望まれます。予期せぬ事態に備え、適切な対策を講じることが、安定した将来への第一歩となります。

 

 

鈴木 教大

社会保険労務士法人レクシード代表

特定社会保険労務士、医療労務コンサルタント

 

沖縄から北海道まで数百社にのぼる顧問企業の支援実績から、労使トラブル対応など、特定社会保険労務士として現実的な解決策提示・予防措置提案を行うエキスパートとして定評があり、企業の労務を“予防”という視点からサポートすることに力を入れている。

 

 

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