亡き父が残した銀行口座の数に、思わず絶句
70代の父親が亡くなりました。先日、相続手続きの準備のために父親の書類を整理をしたところ、押し入れの奥から、地方の銀行の通帳が多数「発掘」されました。父は現役時代、転勤族のサラリーマンとして全国各地に赴任しており、どうやら新しい赴任先へ行くたびに銀行口座を開いていたようです。口座ごとに数万円から数十万円の残高がありますが、こまめに記帳されているとは思えず、正確な金額はわかりません。
母親が父親の口座として把握していたのは、年金が振り込まれるメガバンクのほか、ゆうちょ銀行といくつかの地元の信用金庫ぐらいで、果たしていくつ口座があるのかわかりません。亡くなった本人は気楽かつズボラな性格で、重要な書類の整理もされておらず、母親は「とんだ置き土産だわ」と怒り心頭。弟も頭を抱えています。一体どうしたらいいのでしょうか?
(東京都町田市・45歳会社員)
相続に際し、相続人の方々が非常に苦労するのが、被相続人の預貯金の問題です。預貯金の口座を持たずに暮らしている方はまずいないと思いますが、余計な銀行口座を残さず、ある程度にまとめておくことが大切です。
たとえば、相談者のお父様のように、会社員時代に転勤した経験があれば、転勤先の地区の金融機関にいくつか口座をお持ちかもしれません。そしてそこに数十万円単位の中途半端な預金が放置されているかもしれません。これらを解約し、中身を普段使っている銀行へ移動させておくのです。
自分自身の手で行うのであれば、さほど手間ではないでしょう。自分の口座ですから把握しているでしょうし、本人であれば解約の手間もさほどかかりません。しかし、相続の段になって、そのような口座があると大変です。専門家に解約手続きを頼むだけでお金がかかりますし、預金残高によってはマイナスになることもあります。
使わない口座に残っているお金を、本人がすべて整理してまとめておくだけで、相続手続きはぐっと楽になるのです。事情によっては、金融機関などの付き合いで、残している定期預金などがあるかもしれませんが、その場合は、存在をしっかりとリスト化しておくことです。
エクセルでもワードでも構いませんから、ちょっとメモ書き程度の情報を残すことで、相続手続きの際の事務的な費用をかなり縮小することができます。
結局「片っ端から調べる」しか…
では、口座関連の情報が散らばっている場合はどうなるのでしょうか?
現時点においては、極めてアナログな対応策しかありません。専門家が、亡くなった方の書類を預かり、仕分けして、「このあたりの銀行なら口座があるのではないか?」とあたりをつけて、実際にあるかどうかを問い合わせるのです。問い合わせする場合も正式な書類が必要であり、筆者も仕事柄何度も経験していますが、本当に手間がかかる作業です。
このように、情報を「見えない」状態にしておくだけで、想定外の費用が発生するということを、よくよく覚えておいていただけたらと思います。「資産状況を見える化して整理しておく」ことは、極めて重要なのです。
基本的に、株や投資信託も、ほぼ預貯金と同じです。いくつも証券口座を分けてしまうとそれだけで手間なので、売却していいものなら現金化しておき、まだ売れないと考えるなら、どこかに一本化するようにします。
保険は本来「遺された大切な人」のためのものだが…
保険証券も、きちんとまとめていないと、相続人は何がどこに入っているか把握していないケースがほとんどです。自分が亡くなること前提に、細かな引継ぎを行う人は多くないと思いますが、しかし現実問題として、保険会社の方も嘆いているとおり、承継がうまくいかず、利用されない生命保険も一定数発生しているのです。
こちらも、調べる方法は非常にアナログで、税理士や弁護士が通帳を預かり、通帳の引き落とし履歴を見て、保険会社の引き落としありそうな記録から保険会社の当たりをつけるしかありません。これも大変な手間もコストがかかります。
このように、無駄な費用が発生しないよう、相続の際には、本当にむずかしい税務のところだけ、本当に揉めている部分の解決だけを専門家に頼めるようにしておいたほうがいいのです。それにより、手残りはかなり違ってくることになります。
山村暢彦
山村法律事務所 代表弁護士
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