引き続き、経営者が引退を考えた際に、事業承継か廃業かを判断するための基準をお伝えをします。今回は、判断基準④「後継者や事業の承継先が確保可能か」という点について見ていきます。※本連載は、松村総合法律事務所の弁護士、松村正哲氏、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナーの小宮孝之氏、株式会社ストライク代表取締役の荒井邦彦氏の共著『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、会社経営の「卒業」を主なテーマとして、事業承継 or 廃業の判断基準などをご紹介します。
企業価値のある会社ならば、後継者は自然に現れる
事業承継or廃業の判断基準
④後継者や事業の承継先が確保できるか
1 企業価値があれば、後継者の確保はできる
ここまで説明してきた、①事業規模、②事業の収益性、③会社の財務体質という条件を全てクリアしても、④実際に後継者や事業の承継先が確保できなければ、事業承継はできません。
もっとも、④の点は、これらの①~③のポイントにリンクする問題であって、通常、これらの①~③の条件がクリアできる事業であれば、それは企業価値のある会社ですから、一般的には、承継するだけの魅力のある会社ということになります。
したがって、自ずと、親族内や、社内の役員、従業員の中からが後継者が確保できるでしょうし、仮にそのような後継者がいなくても、第三者への事業売却も十分見込めるでしょう。
金融機関からの借入金への個人保証が最大のネック
2 経営者保証ガイドラインにより、個人保証の引き継ぎは回避できる
もっとも、親族や社内の役員、従業員に事業承継を打診した際に、よく問題になるのが、個人保証の問題です。事業を承継するのはよいけど、社長に就任するに当たって、金融機関からの借入金についての個人保証を引き継ぐ必要があり、それが嫌だ、ということです。
この点、従来は、中小企業が金融機関から借入をするときは、大半の場合、社長の個人保証が求められていました。金融機関からすれば、個人保証をとることによって、社長の個人資産を貸付金の引き当てにでき、また、会社経営に当たっての社長のモラルハザードを回避できるので、それが個人保証をとるメリットでした。
しかし、安倍政権が進める日本再興戦略の一施策として、経営者保証に関するガイドライン(以下「経営者保証ガイドライン」といいます)が公表され、2014年2月1日、その適用が開始されました。この経営者保証ガイドラインにより、一定の要件を満たせば、事業承継での社長交代の時に、個人保証の引き継ぎをしないことも可能となりました。
経営者保証ガイドラインは、中小企業団体及び金融機関団体の関係者が専門家等と協議を重ねて策定した準則であり、法的拘束力はありません。しかし、経営者、金融機関の双方について、自発的に尊重され遵守されることが求められているものです。
次回に続きます。
松村総合法律事務所
弁護士
国内有数の大手法律事務所のパートナー弁護士を経て、2015年、「最高のリーガルサービスを、リーズナブルな価格でご提供する」を事務所の理念として、松村総合法律事務所を開設。
事業承継、M&A、事業再生を主要な業務としつつ、企業法務全般を取り扱う。
2008年~2012年、駿河台大学法務研究科非常勤講師(倒産法)を務める。
主要な受賞歴として、Chambers Global 2006、及びChambers Global 2005-06において、Corporate/M&Aの分野で高い評価を得る。
多数の会社更生、民事再生等の案件も手がけており、三光汽船のDIP型会社更生事件では、法律家アドバイザーを務めた。
主な著書・論文に、『中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)、『事業再生の迅速化』、『倒産法全書 上巻・下巻』(いずれも商事法務)、『論点体型 会社法4 株式会社Ⅳ(定款変更・事業譲渡・解散・清算)、持分会社』(第一法規)、『総特集 条件緩和企業の債権管理・回収』(『ターンアラウンドマネージャー』銀行研修社)他、多数。
著者プロフィール詳細
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連載事業承継、M&A、廃業・・・会社経営からの「卒業」
税理士法人髙野総合会計事務所 シニアパートナー
公認会計士・税理士
法人の会計税務コンサルティングに精通しているFAS部門に所属。事業再生やM&A、移転価格税制、税務会計コンサルティング全般のほか、中小企業の事業承継、経営コンサルティングなど幅広いジャンルのサポートを行っている。
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株式会社ストライク 代表取締役
公認会計士・税理士
1997年にM&A仲介・助言専門会社、株式会社ストライクを設立し、代表取締役に就任。インターネット上に日本初のM&A市場「SMART」を設立し、数多くの中小企業のM&Aを仲介するほか、企業評価やデューディリジェンスに携わる。
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