「もう家族すら信じられない」総資産1.6億円の80歳・元敏腕経営者、理想の高級老人ホームへ入居で〈老後の絶頂〉も…実家寄生の55歳・次男に突き落とされた悲劇【FPが解説】

「もう家族すら信じられない」総資産1.6億円の80歳・元敏腕経営者、理想の高級老人ホームへ入居で〈老後の絶頂〉も…実家寄生の55歳・次男に突き落とされた悲劇【FPが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者の通帳やカードを、本人に代わって家族が管理するということは多くの家庭で行われています。しかし、預金者である本人の意思や利益に反して現預金や年金を使い込むと、それは高齢者に対する「経済的虐待」に該当します。超高齢社会のいま、身動きが取れず判断力が落ちた高齢者が、その家族につけこまれるといったケースが増えてきているのです。本記事では、Aさんの事例とともに、老後の財産を適切に守る方法について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

突然、次男夫婦がAさんの自宅に住みつく

老人ホームに入居した3年後、次男の夫婦がそろって自宅に住みつくようになりました。ホームを訪ねてきた次男が言うには「会社を売却してヒマになった、オヤジの面倒を見ようと思って」とのことでしたが、表情が冴えません。「老人ホームの利用料金や年金の受け取りなど、お金回りは僕が管理してあげるよ」とも言います。

 

なにか引っかかるものがありましたが、今後自分での金銭管理には不安が大きいのが現実です。次男の言うことを信じ、預金通帳を預けました。しかし、その数ヵ月後から月額利用料の引き落としができないという旨を施設職員から聞きました。

 

「口座には十分な残高があるはずだが、私の手続きミスかもしれない。通帳を確認してみます」とAさんが言うものの、通帳が見当たりません。次男に預けたことを忘れているのです。

 

それを聞いた施設職員は心配な表情を浮かべました。施設職員から次男のBさんに何度も連絡を入れ支払いを促したものの、一向に入金されません。状況から考えて、施設職員は次男がAさんの預貯金を使い込んでいるのではないかと考え、地域包括支援センターへの通報を行うことにしました。

 

行政機関の職員が訪問調査を繰り返しヒアリングした結果、次のようなことが発覚しました。

 

・Aさんの預貯金8,500万円は残り1,000万円を切っている

・預貯金を使って、子供の大学費用に充て、車も買った

・Aさんの老齢年金は次男の生活費として使われている

・次男は経営していた会社が破綻し、自宅も失っている

・次男はうつを発症していて、就労が困難である

 

家族であっても親の口座から大きな金額を勝手に引き出すことは不可能のはず。おそらくAさんのキャッシュカードを使って頻繁に限度額までのお金を引き出したか、振込をしたのでしょう。

 

無職となりお金に困った次男夫婦が父親の家に転がり込み、父親の預貯金を使い込んでいたということのようです。

使い込みをされても次男を責められない父親

現金が残り1,000万円を切っている状態では、現在の老人ホームの月額利用料を支払っていくには少し不安が残ります。老齢年金も十分にあるためいますぐ破綻してしまうほどではありませんが、今後長生きをするほどリスクがあるという状態です。

 

現在の老人ホームを退去したとしても、支払った一時金は償却期間を過ぎているため戻ってきません。自宅を売却すれば、まだ十分な資産があります。施設職員があくまでも提案としてそれを伝えたところ、Aさんは拒否。「次男が住む場所がなくなると困るだろう……」と言うのです。

 

「遊ぶためにお金を使い込んだのであれば腹も立つが、孫の大学費用に使ったのであれば強く責められないよ……孫が中退しなくて済んでよかった。車もきっと取られて困ったから買ったのだろうし。まあ、ただ、もう息子のことは信用できません。それがなにより悲しいです」

 

次男のうつの状態はかなり重く、アルコール依存も深刻であるため、正常な判断が難しい状況のようです。年齢的なことからも今後経営者として再起したり、就職したりすることは難しいかもしれません。

 

Aさんはいまの預貯金と年金だけでやりくりできる安価なケアハウスなどへの引っ越しも考えたようでしたが、長年富裕層として生活してきたAさんが施設の中で浮いてしまい、友達ができない危険もあります。

 

結局のところ、Aさんの現在の老人ホームでの生活と、次男への生活支援を両立させるために、自宅は売却することになりました。次男は障害年金を受給し、妻はパートに出ることに。自宅を売却したお金の一部から毎年50万円を生活支援として次男に暦年贈与することにもなりました。

 

公営住宅に引っ越すことで家賃を抑えることができます。Aさんの認知症が進行したときにそなえて、法定後見制度を利用することになりました。これで次男に通帳を預けることができなくなります。

 

もし施設職員が次男の使い込みに気づけないまま放置していたら、Aさんも次男も生活が破綻してしまったでしょう。親子関係にも修復不可能な亀裂が入ったはずです。

 

次男が父親のAさんに行ったことは、いわゆる経済的虐待と呼ばれる行為ですが、次男もまた病的な精神状態にあり一方的に責めるわけにもいきません。

 

大切なのは「子供を信じない」ということではなく、「子供と金銭トラブルを起こさなくて済むように、元気なうちに財産管理の方法を確立しておく」ことです。子供を経済的虐待の加害者にさせないために対策が必要です。

 

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