(※写真はイメージです/PIXTA)

老後の生活を支える「公的年金」。多くの人は1円でも多くもらいたい……と思うでしょう。しかし、年金受給額が見込額よりも少なかったというケースは珍しくないのです。年金減額の原因には一体どのようなものがあるのでしょうか? 本記事では、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、TさんとFさんの事例とともに年金減額になってしまう、よくある原因について解説します。

老後の生活を支える公的年金額を把握する

夫婦2人の老後の最低日常生活費は月額平均で23万2,000円、ゆとりある老後生活費は月額平均で37万9,000円(公益財団法人生命保険文化センター 2022(令和4)年度 生活保障に関する調査(速報版))という調査結果がでています。

 

2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書では、老後30年間で約2,000万円不足するという、老後2,000万円問題が記憶に新しい人も多いかと思います。

 

年金は1人ひとり金額が異なるため、当然不足する金額も変わってきます。さらに、その人のライフスタイルによっても必要な額が異なります。

 

会社員だった70歳のTさんとFさんは、ともに同い年の妻がおり、貯金額は2,500万円、65歳で定年、65歳からは70歳まで働いてきました。TさんとFさん、それぞれの夫婦が受け取る公的年金額は次のとおりです。

 

老齢基礎年金:夫婦ともに 79万5,000円(2023年度満額)
       妻に振替加算 3万3,619円
老齢厚生年金:夫 47万円×5.481÷1,000×504月=129万8,339円
       妻 16万円×5.481÷1,000×20月=1万7,539円

合計:293万9,497円/年(月額24万4,958円)

 

今回は、老後は安泰だと思っていたのにも関わらず、年金減額で老後破産の危機に陥ったTさんとFさん2組の夫婦の事例について解説します。

頑張りすぎて年金減額…Tさんのケース

製造業に勤めていたTさんは、65歳で定年退職を迎えます。その後は会社の役員として退職するまで、公的年金は働けなくなったときの備えにして、70歳まで「繰下げ」してきました。

 

そのため、老後の備えとしては安泰と思っていたところ、想定外の出来事が起こります。

 

仮にTさんが65歳から年金を受け取り始めたとしても、年金のみで日常最低生活は送れそうですが(年金額は上述のとおり)、Tさんの家系は長寿であることに加えて、いまのところ既往症もないため、70歳まで繰下げし、年金を増額しようと考えました。

 

年金を繰下げることでひと月0.7%増やすことができます。65歳からの年金を70歳まで5年(60月)繰り下げすると42%アップで受け取ることができます。

 

Tさん夫婦が70歳まで繰り下げると、合計415万9,966円/年、月額34万6,664円となります(振替加算は増額の対象外)。

 

さらに65歳以降の厚生年金保険の加入期間60月分の年金額を約16万円とすると、Tさん夫婦の年金額は約430万円、月額は約36万円となり、ゆとりある生活ができる金額まで増やすことができます。

 

しかしながら、65歳以降、Tさんは会社の役員となり、報酬額は月50万円。70歳を目の前にして、参考に見込額を出してもらおうかと、年金事務所に行ったところ、激怒しました。

 

70歳まで繰下げすると、42%増額することを想定していましたが、思ったほど、厚生年金保険(老齢厚生年金)が増えていなかったのです。

 

年金を受け取りながら働く人は、基準額(2023年度48万円)を超えると、超えた差額の2分の1の年金が支給停止となる、「在職老齢年金」制度により、Tさんの老齢厚生年金は、約77万円は支給停止となり、支給停止分は増額されません。

 

「頑張って働いてきたのに、そのせいで年金が減額されるなんてあまりにひどい制度じゃないですか! こんな仕打ち、腸が煮えくり返りますよ」

 

Tさん夫婦は年金のみの収入で日常生活は賄えるかもしれませんが、いままで、余裕ある生活を送っていたこともあり、ゆとりある生活費には届かず、年金だけでは不足するかもしれません。

 

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