老後の財産を守るために必要な手続き
ここからは、認知症などによって判断能力に不安が出てきたあとで、自分の財産を守っていく方法を解説していきます。
老人ホームでは基本的に金銭管理は「自己責任」「自己管理」です。これは厚生労働省の「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」でも通達されています。老人ホームでは利用者からの強い要望がない限り通帳や印鑑を預からないのが原則なのです。
特に認知症が進行し判断能力を失っている場合は、本人の要望があったとしても預かることはできません。その場合は、外部のサービスを利用することになります。外部のサービスには3種類が考えられます。
1.厚生労働省「日常生活自立支援事業」
この支援事業には「金銭管理」が含まれています。税金や公共料金、医療費などの支払いや、金融機関での手続きなどに対して支援を受けることができます。
ただし、日常的金銭管理の範囲に限られ、不動産の売却などを委任することはできません。また、利用できるのは認知症である場合や知的障害者に限られます。
2.「財産管理委任契約」(弁護士・司法書士)
弁護士や司法書士との間で、財産管理委任契約を結ぶことで正当な権限を第三者に認めることです。弁護士など専門家に財産の管理を委任すると聞くと、一見安心に感じますが、デメリットもあります。公正証書や後見登記が行われるわけではないので、社会的信用が十分ではないのです。
そのため金融機関においては財産管理委任契約だけでは、弁護士などによる手続き代行を認めないことがあります。また、財産が正当に管理されているのか監督する術がないため、不正が起こらないとは言い切れないのも現実です。
3.「成年後見制度」
最も多く利用されているのが成年後見制度です。利用者数が年々増加しています。
成年後見制度とは、家庭裁判所によって専任された人を「成年後見人」として、本人の代わりに財産管理やサービスの利用締結・取り消しといった手続きを委任できるようにした制度です。
たとえば、認知症で判断力を失った人が高額な商品の購入をしたとしても、成年後見人によって契約の取り消しができます。社会的信用が高いため、金融機関においても成年後見人が手続きの代行を行うことが可能です。
成年後見人には、判断能力が低下してから家庭裁判所が指定する法定後見人と、元気なうちに主に親族を指定して手続きをする任意後見人と二種類あります。任意後見人の場合でも後見監督人という監督者が指定されるため、高い信用度があります。すでに認知症となっている場合には任意後見人ではなく、法定後見人の制度を利用することになります。
最近では成年後見人に親族を選ぶケースが少なくなっています。厚生労働省「成年後見制度の現状」によると、令和4年に選任された成年後見人は、「親族以外」が80.9%でした。親族以外の内訳は「弁護士」「司法書士」「社会福祉士」が82.2%を占めます。
このように非常に安心感のある制度であるため、判断能力が低下した際に家族と金銭トラブルを起こす不安のある方には積極的に検討をおすすめします。経済的虐待が起こりえない環境を整備することが絶対に必要です。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表FP
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