今回は、会社経営をやめる「理由」によって変わる、事業承継やM&A等の選択肢について見ていきます。※本連載は、松村総合法律事務所の弁護士、松村正哲氏、税理士法人髙野総合会計事務所シニアパートナーの小宮孝之氏、株式会社ストライク代表取締役の荒井邦彦氏の共著『よくわかる中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、会社経営の「卒業」を主なテーマとして、事業承継 or 廃業の判断基準などをご紹介します。
理由は「社長の高齢・引退型」or「業績悪化型」の2つ
社長が、会社経営をやめようと思うとき、高齢・引退型と業績悪化型の大きく分けて2つのタイプがあります。そして、そのタイプによって、会社経営のやめ方の選択肢が異なってきます。
高齢・引退型は、社長が高齢となり、事業から引退したいというケースです。
会社の経営状況としては、会社の財務状態はさほど悪化しておらず、当面の資金繰りにも問題はない場合が想定されます。この場合の選択肢は、①事業承継、または②廃業となります。
他方、業績悪化型は、業績不振で、今後も改善の見込みが立たず、このままずるずると事業を継続すると、更に状況が悪化し、債務超過への転落や資金ショートのおそれがあるため、倒産する前に、自ら廃業するケースです。
会社の経営状態としては、会社の財務状態が悪化しており、資金繰りにもあまり余裕がない場合が想定されます。この場合の選択肢は、①廃業、または②倒産手続となります。
【図表 高齢・引退型と業績悪化型】
もっとも、高齢・引退型と業績悪化型という2つのタイプは、あくまで典型的なタイプを示したものにすぎません。
実際の会社のあり方としては、両者の混合型という場合も多くあります。高齢で引退を考えており、会社の経営状態も余り良くないが、かといって当面、事業継続に支障が生じることはない、といった状態です。
このような場合は、高齢・引退型と業績悪化型という両方のタイプの視点を持ちながら、様々な問題を検討することになります。
企業価値がある会社なら、まずは事業承継を考える
社長が会社を引退しようと思ったとき、通常、まずは事業承継を考えます。
会社の業績がある程度好調で、会社の財務状態も比較的良好であり、かつ事業規模が小さすぎではなければ、会社に企業価値が見込まれます。そのような会社であれば、事業承継ができる可能性があります。
事業承継の手法としては、①親族への承継(相続)、②社内の役員や従業員への承継(MBO等)、または③社外の第三者への承継(M&A)の3つがあります。
次回、その手法について説明します。
松村総合法律事務所
弁護士
国内有数の大手法律事務所のパートナー弁護士を経て、2015年、「最高のリーガルサービスを、リーズナブルな価格でご提供する」を事務所の理念として、松村総合法律事務所を開設。
事業承継、M&A、事業再生を主要な業務としつつ、企業法務全般を取り扱う。
2008年~2012年、駿河台大学法務研究科非常勤講師(倒産法)を務める。
主要な受賞歴として、Chambers Global 2006、及びChambers Global 2005-06において、Corporate/M&Aの分野で高い評価を得る。
多数の会社更生、民事再生等の案件も手がけており、三光汽船のDIP型会社更生事件では、法律家アドバイザーを務めた。
主な著書・論文に、『中小企業の継ぎ方、売り方、たたみ方』(ウェッジ)、『事業再生の迅速化』、『倒産法全書 上巻・下巻』(いずれも商事法務)、『論点体型 会社法4 株式会社Ⅳ(定款変更・事業譲渡・解散・清算)、持分会社』(第一法規)、『総特集 条件緩和企業の債権管理・回収』(『ターンアラウンドマネージャー』銀行研修社)他、多数。
著者プロフィール詳細
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連載事業承継、M&A、廃業・・・会社経営からの「卒業」
税理士法人髙野総合会計事務所 シニアパートナー
公認会計士・税理士
法人の会計税務コンサルティングに精通しているFAS部門に所属。事業再生やM&A、移転価格税制、税務会計コンサルティング全般のほか、中小企業の事業承継、経営コンサルティングなど幅広いジャンルのサポートを行っている。
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連載事業承継、M&A、廃業・・・会社経営からの「卒業」
株式会社ストライク 代表取締役
公認会計士・税理士
1997年にM&A仲介・助言専門会社、株式会社ストライクを設立し、代表取締役に就任。インターネット上に日本初のM&A市場「SMART」を設立し、数多くの中小企業のM&Aを仲介するほか、企業評価やデューディリジェンスに携わる。
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