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「想像を超える危機」が迫ると、人はボンヤリして動けなくなる
極限状態になったときのメンタルについていくつか紹介しましょう。
人間はストレスが強すぎると、「すべてを放棄」することがあります。動物が「戦っても逃げても無駄!」と感じたときに、死んだふりをして窮地を乗り切るように、身体が行動量を減らして、「やる気が出ない」「外出する気がしない」という状態になって、何もする気がなくなってしまうようです。
自衛隊で学んだ知識ですが、人間は生きるか死ぬかの状況に直面すると、ほとんどの人がボンヤリした状態になって動けなくなるようです。これは「凍りつき症候群」というそうです。
2011年3月11日に起こった東日本大震災のとき、目の前に津波という危機が迫っていても、立ち尽くす人がいました。
人間は自分の想像を超えた驚異が来ると、なぜか、「自分は助かるだろう」「動かなくても大丈夫な気がする」という気持ちがして、行動が止まってしまう性質があります。
そのため陸上自衛隊の教育では、「頭が真っ白でも止まるな。指揮を出せ!」と言われます。生きるか死ぬかの緊急時では、どんな指示であっても命令を出さないよりは良いからです。
緊急事態には、無理矢理にでも考えて、行動することが大切なのです。
もし凍りついている人がいたときは、具体的な指示を出すか、身体を揺らして「おい、しっかりしろ!」と言うと戻るようです。覚えておいてください。
生きるか死ぬかの状態では「精神論」が重要
また、もし大ケガをしている人がいた際は、「生きる力がみなぎる言葉をかける」という行動を心がけてください。
陸上自衛隊の負傷救護では、「よし、大丈夫だ! 傷は浅い」「家族が待ってるからな!大丈夫だ」などと声をかける訓練をします。なぜなら、絶望は人を死へ追いやるからです。
救護する人は、絶望的な顔をしていたり、「もう助からない…」などと言ったりしてはいけません。負傷者の気力がなくなり息絶えてしまうからです。
陸上自衛隊の救護訓練中でも、「ありきたりな言葉」ではなく、「本当に本人がみなぎる言葉をかけろ」と教えられます。
たとえば、一人娘を溺愛している人には、「娘さんが待ってるぞ!」と声をかけたり、彼女とラブラブな若手には、「ゆいたんを一人にさせるな!」などと彼女の名前を言ったりします。
ただ、二次元オタクの隊員には、「〇〇の最終回観たいんだろ!」「コミケまであと●日だぞ!」などと声をかける隊員がいるので、少し大喜利大会っぽくなります。
ふざけているように見えますが、そのくらいやらないと実戦では使えないので、真剣であれば教官はご満悦です。
このように生きるか死ぬかの状態では精神論が重要になってきます。先ほどもお伝えしたとおり、人は絶望を感じると死んでしまうからです。
だから大ケガをしている人には、「ケガはたいしたことない!」と声をかけ、遭難したら、「すぐに助けてもらえる!」と言いましょう。根拠のないポジティブさも、時には大切なのです。
「この戦争が終わったら結婚するんだ…」は現実だと生存フラグ
生き残るための考え方として、米軍研修で興味深いことを聞いたことがあります。それは、「パートナー愛や家族愛が深い兵士のほうが、戦場で生き残る確率が高い」ということです。
よく戦争映画などで、「この戦争が終わったら結婚するんだ…」というセリフを言う兵士は、ストーリー上、高い確率で死ぬ(ネットでは「死亡フラグ」など)と言われますが、実際は異なるようです。
家族など愛する人がいない孤独な兵士は、「死んでもいいか!」と危険な行動が目立ち、負傷するリスクが高くなるようです。
しかし、愛する人がいると「生きて帰りたい!」と強く思うので、知恵や力を振り絞って生き残ろうとして、その結果、生き残れるようです。
戦場では愛と臆病さが人を賢くし、身を救うことがあるのです。
ぱやぱやくん
防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)、『飯は食えるときに食っておく 寝れるときは寝る』『「もう歩けない」からが始まり』(どちらも育鵬社)などがある。
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