【前回の連載】Xフォロワー24万人超・元陸上自衛官、「あなたは国のために戦えますか?」と聞かれたら〈“いいえ”と答えて当然〉だと思う深いワケ
「弱さ」を突きつめればメンタルは守れる
陸上自衛官と言えば「心身ともに強い人」というイメージがあると思います。
たしかに厳しい訓練を行うと、入隊前よりは心身ともに強くなれます。しかし、私は自衛隊生活を通して「人間の弱さ」というものを深く知ることができました。
そして、私は自衛隊生活で、ひとつの答えを見つけました。それは、
弱さを握りしめて生きていくほうが、しなやかな強さを得ることができる。
ということです。結局のところ、人間は弱いのです。身体を極限まで鍛えても、1週間も寝ないと精神的に不安定になります。そして、いくら強い人間でも素手でトラと戦って勝つことはできません。
しかし、「寝ないと精神的に弱くなる」「素手ではトラに勝てない」ということがわかっていれば、休み方や戦い方は大きく変わります。自分の弱さを握りしめて生きていける人が強く、賢い人だと私は信じています。
身につけるべきは「回復力」
そもそも、人生は打ちのめされることばかりです。ほとんど予定調和しませんし、悔しい思いをして負けることのほうが多いです。
だから、回復力を身につけてください。とりあえず何とか闘えるぐらいの回復力をつけるのです。
陸上自衛隊に入隊すると「メンタルが強くなれる」と思われがちですが、そんなことはありません。辛いときは辛く、悲しいときは悲しいのです。
自衛隊に入隊しても、スーパーマンにはなれません。当たり前のことです。
せいぜい、「メンタル回復術はあるな」と思ったぐらいです。強くなることより、心の状態を理解して、回復術を知っておいたほうが、生き抜く上で有効といえます。
たしかに真夏で100キロを歩いたり、マイナス10度の雪山を歩くと、「厳しい訓練でメンタルが強くなった!」と錯覚するのですが、現実はそう強く思う人ほど潰れていきます。
明るくて部隊の中心にいた屈強なレンジャー隊員が、ある日突然、「おれはもうダメだ」と休職することがありました。彼のようなケースは実は珍しくなく、よくある話といえます。
あるレンジャー隊員は痛みにめっぽう強く、肋骨を骨折しても平気な顔で行軍する強者でしたが、その反面、内臓が弱く、すぐ下痢になるので、お酒や牛乳は絶対に飲めませんでした。
また、結婚とともに嫁家族とトラブルになり、生活が荒れてみるみる太ってしまった格闘教官もいました。
このように、強さは一面的なものであり、ある痛みに強かったとしても、別の痛みにはもろかったりします。柔道で言えば、前への突進力はあっても、横や後ろへ体制を崩されたら簡単に一本を決められてしまう感じに似ています。
強そうに見える人であっても、状況と環境によっては、人はとても弱くなるといえるでしょう。
しかし、そのことを理解していないと、「みんなに弱みを見せられない」「ダメなやつだと思われたくない」と弱さを隠して、自分で自分の心を追いつめてしまいます。
しかも、誰にも悩みを言わないと、「彼は大丈夫だ」と判断されるので、次々に仕事が降りかかり、その揚げ句にメンタル不調となり、倒れてしまいます。
どんなに辛い訓練を乗り越えても、どんなに身体を鍛えても、無理をすると潰れることは誰にだってあるのです。屈強なレンジャー隊員でさえも倒れることを考えると、一般人である私たちはさらにそのことを自覚しておいたほうがいいでしょう。
「自分はダメなやつで弱い」と胸を張って言える人は強キャラ
一方で、「弱い自分をどう守るか」というテーマを持っている人は、しなやかで強い印象でした。「自分は弱い」というテーマを捨てないことが強さにつながることもあると思います。
実は、「自分はダメなやつで弱い」と胸を張って言える人は強キャラです。
そう思っていれば、失敗しても「まあ弱いからな」と考え、目標と自分の実力とのギャップから生じる「認知のゆがみ」を防げます。
実際に、私が陸自で出会った精神的に強い人たちの中には、「小さい時に親に捨てられた経験がある」「親友が自殺をした」「ダマされて多額の借金があった」などと、悲しい過去を持っている人もいました。彼らは「自分の弱さ」と「他人の弱さ」を誰よりも知っているがゆえに、強キャラでいられるのです。
自分の弱さを知り、他者に見せることは、自分を守り、自分を強くすることなのです。
弱音をなかなか言えない人は、強がりながら弱音を言う練習をしたほうがいいでしょう。戦争映画などで、ベテラン兵士が「オレはビビっちまったぜ!」「敵さんもマジだぜ」と明るく言ったりするシーンがありますが、このように工夫をしながら不安を言う、本音を言う行動は自分を救うことになります。
たとえば普段から、「俺は弱いからな! 寝ないとダメなんだ!」と明るく言っていれば、あなたが元気ないときに、「最近は寝れてますか?」と周りが助けてくれるでしょう。
気をつけてほしいのは、メンタルが弱っているときに、「このままではいけない!」と思うことです。そうするとさらに疲れるので、「弱ってるなぁ」と認めましょう。いったん弱さを認めると、落ち着くこともあります。そして、「いつかは底に着く」と信じてください。
今までの人生を振り返ってみてほしいのですが、どんなに辛かったときでも、何とかそこから抜け出してきたことが、ほとんどだと思います。底に着けば、それ以上は落ちません。後は浮上するだけです。そして、きっと浮上できます。
だから、体力さえあれば気持ちは回復すると信じて早く寝てください。休まずに頑張ったところで回復は難しいです。焦ってもがくと体力がなくなって倒れてしまいます。
「自分は大丈夫」と思っている人が一番危ない
このように、弱さを突きつめればメンタルは守れます。
悲しい、辛い、うまくいかないをすべて認めて、「もうどうしようもない」と思ったときには体力を回復させましょう。
「自分はメンタル強いから大丈夫」
「今までキツいことを乗り越えてきたから大丈夫」
私が見てきた範囲ではありますが、そう思う人ほど休職になって、療養に時間がかかる印象がありました。つまり、「メンタルが強くなったつもり」の人が実は一番危ないのです。
メンタルは筋肉みたいにはなかなか鍛えられません。強くなったと思えば思うほど、弱さを握りしめることができなくなるので、最終的には「1週間は寝なくても大丈夫」という思考におちいり、そして倒れます。常に誰かに助けてもらえるように生きてくださいね。
ぱやぱやくん
防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)、『飯は食えるときに食っておく 寝れるときは寝る』『「もう歩けない」からが始まり』(どちらも育鵬社)などがある。
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