アジア太平洋地域内の投資家の存在感が増している
世界では各国市場における自国国内の投資家による投資とアジア太平洋地域以外の投資家からの投資が10年来の最低水準に近づいている。一方、アジア太平洋地域からの投資は10年間の平均値をやや上回って推移している。
各国の海外への不動産投資の2023年第1四半期から3四半期の累計額は、アメリカ資本が前年同期比▲57.0%、イギリス資本が▲73.0%、ドイツ資本が▲69.0%と減少した。一方、シンガポール資本は+31.4%、日本資本は+187.8%と増加した。またアラブ首長国連邦は+597.1%と国外不動産への投資額を大幅に引き上げた。
アジア太平洋地域での不動産購入額(2022年第4四半期から2023年第3四半期の4四半期累計)を域内外の資本別にみると、アジア太平洋地域の外からの外国資本の購入額は約127億ドル(約1兆9,039億円、前年同期比▲61.6%)であったが、各国における国内資本の購入額が約1,009億ドル(約15兆673億円、▲36.9%)、アジア太平洋地域内からの外国資本の購入額が約246億ドル(約3兆6,692億円、▲17.2%)となり、アジア太平洋地域内の投資家の存在感が増している。
また、アジア太平洋地域内の各国・地域別市場の外国資本の購入総額に各外国資本が占める割合(2023年第1四半期から第3四半期累計)は、シンガポール資本が韓国市場の72.0%(2021年と2022年平均は36.4%)、インド市場の62.1%(44.7%)、日本市場の44.4%(22.6%)を占めた。また香港資本は、中国市場の68.1%(44.2%)、シンガポール市場の47.1%(17.0%)を占めた。
日本資本もオーストラリア市場の32.6%(0.0%)、その他アジア太平洋地域内の27.5%(20.2%)、インド市場の8.1%(4.8%)を占め(図表4)、投資した用途はオフィス、物流施設、賃貸マンション、開発用地、ショッピングモール、ホテルと多岐にわたる。
米国で懸念される不良債権処理の長期化、ドル円や地政学リスクにも留意
世界的なマクロ経済環境は、インフレの進行と金利上昇の可能性、中国の不動産危機、ロシアのウクライナ侵略、イスラエルとガザにおける軍事衝突とその拡大による地政学リスクなど、状況は悪化しており、今後の行方も不透明である。
同様に世界の不動産市況も全体的には停滞しているが、アジア太平洋地域の不動産市況は相対的に悪くない。日本の不動産市況は安定した状態が続いており、価格も横ばいかむしろ上昇傾向との強気の声もある。またアジア太平洋地域の投資家は海外投資にも積極的である。
一方で、国外への投資を控えている国・地域もある。特にアメリカ資本の対外投資の減少と、アメリカ国内で不良債権残高の増加には注意が必要である。
MSCIリアル・キャピタル・アナリティクスによると、顕在化しかつ未処理の不良債権の残高は、2023年第1四半期から第3四半期までに約789億ドル、潜在的な不良債権が約2,157億ドルあると試算されている。現在の不良債権残高が世界金融危機時の半分程度であることは安心材料ではある。
しかし、従来は相対的に投資額が大きかったアメリカの投資家が、日本の不動産に対して今後も投資を控えることを続ければ、国内不動産市場も悪影響をもたらす可能性はある。
さらに、今のところ安定している国内不動産価格も、外国資本にとっては円安の進行により外貨換算した価値が下落していることになる。外国資本にとっては安く買えるという側面もあるが、今後さらに円安が進むことになれば、既存投資の外貨換算での投資が毀損することとなり、外国資本による日本国内不動産投資が減少するリスクが生じ、その際には国内不動産投資市場は大きな悪影響を受けることとなる。
また、今期は国内資本の海外不動産への投資が大きく伸びた。従来は国内を中心に不動産投資を行っていた投資家も、リスク分散のために海外の不動産への投資を開始・拡大したという面もある。円安や日本の人口減少や経済の低成長が続くとすれば、国内不動産の今後の収益性に大きな期待を持てない国内投資家を中心に、今後も海外不動産への投資が拡大してく傾向は続くと考えられる。
日本の金利が長期的に上昇することが予想される中、これまで安定的に成長してきた日本の不動産投資市場および不動産取引価格が今後どうなるのか、その動向を注目していきたい。
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