(※写真はイメージです/PIXTA)

オリ・パラ終了後もなお日本の地価高騰は続いている。しかし高額な不動産を購入しているのは日本人ではなく外国資本がほとんどだ。販売側のディベロッパーも国内ではなく海外に向けてエクスクルーシブに情報を発信している。タワマンは外国人富裕層で溢れかえり、日本人にとって母国の不動産が高嶺の花となる。なぜこのような事態に陥ってしまったのか、振り返り検証する。

日本人は射程外? 「世界レベル」のタワマンが誕生

2023年11月、東京タワーに程近い住商混在地に大型複合施設「麻布台ヒルズ」が誕生した。オフィス、ホテル、ショッピングモールなどが入居する地上64階建ての複合棟をメインに、流線形のデザインが印象的な低層商業棟、2棟のタワマンの合計4棟が、緑を湛えた広場を包み込むように林立している。

 

ショッピングモール内には日本初出店の海外レストランも数軒あり、ほとんどがオーガニック、グルテンフリー、ヴィーガンといった健康食をコンセプトに押し出している。

 

こういったメニューは欧米の食卓において当たり前のものとなっているが、日本人にとってはまだ馴染みが薄い。オーガニックはある程度浸透してきたものの、ヴィーガン・グルテンフリー食材はスーパーマーケットでほとんど目にすることがなく、扱っている店があったとしてもわずか2、3品目程度に留まる。輸入品で値段も若干高めなので日本文化には浸透しづらいのだろう。

 

レストランフロアの一角に目をやると、用途不明の一室がある。近づいて入口の表示をみると「祈祷室」と書かれている。イスラム教徒の利用を想定した部屋なのだろう。これもまた日本人にとって馴染みのない海外文化の一端だ。

 

関係者の話によれば、今後インドネシアやマレーシアに本社を置く企業の入居も見込まれるため、このような施設を設置したとのことだ。

 

複合棟の上層階には著名ラグジュアリーホテルと提携したペントハウスがあり、1戸の販売価格は200億円を超えるという。これでは豊洲・芝浦のタワマンを物色するパワーカップルなど手も足も出ない。

 

また、2棟のタワマンも世界レベルのライフスタイルを意識した仕様になっており、販売価格は安く見積もっても坪単価2,000万円を下らないだろう。

「オリ・パラ以降は地価下落」の予測は何だったのか?

「2020東京オリンピック・パラリンピック以降、日本の地価は暴落する」と流布した精通者もいたが、日本の地価は未だ高止まり、あるいは微上昇の状況にある。では、大地主である日本国民はその分潤っているのだろうか?

 

残念ながら日本人の給与水準は30年前のまま平行線をたどっており、一方他の先進国は1.5倍から2倍に上昇している。しかも今は1ドル=150円超もの円安傾向にある。なぜこんなことになってしまったのか、年を追って振り返ってみたい。

 

◆2008年

リーマンショックの影響で日本の不動産価格は大暴落。大手ディベロッパーの多くが経営不振、または破綻に陥る。

 

◆2013年

オリンピック招致決定で「日本の不動産価格が今後上がる。安い今が買い時」という世界的な風評が広まる。

 

◆2014年

中国人投資家がオリンピック風評に踊らされて日本の不動産を爆買いする。この影響で不動産価格が上昇するも、2016年以降は中国経済が悪化し爆買いは終焉を迎える。

 

◆2020年

コロナ禍による緊急事態宣言発布でオリ・パラは延期となり、インバウンド需要も見込めなくなる。ホテル・飲食業は軒並み経営破綻し、繁華街に売りビル・売り土地が続出する。

 

◆2022年

コロナ禍による景気低迷の中、ロシア・ウクライナ紛争勃発で世界情勢がさらに悪化。アメリカの金融引き締めを受けて日銀が金融緩和を行ったことにより円安が加速する。

 

2023年現在、日本の大手ディベロッパーは海外に向けて営業をかけている。前述の麻布台ヒルズがそれを顕著にあらわす事例といえるだろう。

 

水面下ではアジア圏のみならず、欧米の海外投資法人が銀座や六本木といった都心一等地にデューデリジェンスをかけている動きも伺える。もはや、日本人投資家が入り込む余地はないのか。

日本経済はコロナ禍に救われた?

「地価下落」の予想が外れた最大の原因はコロナ禍であろう。コロナ禍によって、非効率な理由で無駄遣いされてきた日本の土地・建物の多くが淘汰されたといえる。

 

たとえば、オフィスビル群の隙間でポツンと営業を続ける木造戸建の個人商店。店主が「自分の目の黒いうちは営業させてくれ」と立ち退きを拒むため、再開発の話が進まない。しかしコロナ禍で売上が落ち、自治体のコロナ融資を受けながら食い繋ぐも、融資返済が焦げ付いたため廃業せざるを得なくなった。

 

このようなケースが頻発したため用地買収がスムーズに進み、都内でもいたるところで大規模再開発事業が進行中だ。

 

再開発事業のような街の改革がなければ、日本は2004年オリンピック後のギリシャのように深刻な経済破綻を迎えていたかもしれない。とはいえ、日本の不動産業界は瀕死の状態で、海外資本によってかろうじて“生かされている”状況だ。

 

これを打破するためには給与水準アップは不可欠といえる。坪単価2,000万円以上のタワマンをキャッシュで買えるようなジャパニーズ・ビジネスマンが増えないと、日本はこのまま「外国人ファースト」の国になってしまう可能性は、極めて高いといえそうだ。

 

 

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