国内外の不動産投資が盛んな香港
香港人にとって、不動産投資はきわめて身近なものである。
香港の市街地では、100m×100mの1ブロックに2、3軒は不動産屋があるといっても過言でない。そして、新築マンションが建つと、その販売の広告が車一面にラッピングされたバスが町中を走る。
さらに、海外不動産投資も盛んである。旧イギリス領だけに、イギリスの不動産投資も多く行われており、イギリスの不動産販売のイベントは多く、イギリスの不動産販売を専門に扱う業者もある。
もし日本の銀行に「外国の不動産を購入するためにローンを組みたい」といってもただちに却下されるだろうが、香港では、ロンドンの不動産を担保として、ロンドンの不動産購入のためのローンを組むこともできる。
香港人、セカンドハウスを求めて東京でタワマン探し
今回、筆者が物件探しに同行した香港人は、香港とイギリスに不動産を所有している弁護士である。もともと日本が好きで、よく日本にも遊びに来ている。
日本では、大手法律事務所の弁護士といえば深夜まで仕事をしているイメージだが、海外ではそこまで激務ではない。しかも、この香港人弁護士は仕事をセーブして、楽しみながら仕事をしたいと思っている様子。日本にセカンドハウスを買い、今まで以上に日本に滞在していきたいと考えているという。
希望する物件は以下のようなものだった。
【場所】東京の交通至便な一等地
(山手線の駅近郊、または、山手線の内側で地下鉄の駅近郊)
【広さ】50平米程度
【予算】2億円以内
【施設】スポーツジムあり
これらの点を、少し掘り下げてみよう。
【場所】ファミリー向け物件NG、いかにもなエリアはNG…
マスコミ報道などで「豊洲などのベイエリアのタワマンを中国人が爆買い」といった記事を見ることもある。たしかに、投資目的の中国人のなかには、こうした人もいるようだ。
しかし、セカンドハウスとして使う目的で豊洲などのベイエリアの物件を選ぶ人は、あまり多くない。
1回1週間くらいの期間で、年に3、4回ほど東京に来る外国人は、豊洲のようなファミリー向け住宅地に滞在したくはないのだ。だからといって、交通の便がよければいいというのではなく、外国人観光客の多い「おのぼりさん」的な場所もイヤという、なかなかアンビバレンツな感覚を持っている。
今回の香港人弁護士の場合も、単なる投資目的ではなく、実際に使うことも考えているだけに、東京でよく行く渋谷、原宿、表参道などに行きやすい場所、それでいて、落ち着いた場所を希望してきた。
場所へのこだわりには、便利さを求めてというだけでなく、金銭的な理由もある。
いずれ本格的に日本に住むとしたら、もう少し広い物件に住み替えることを考えているので、売却するとき値段が下がらない場所がいい、という意図もある。
【予算】2億円は「お手頃」との認識…現金一括払いが前提
今回の予算は日本円で2億円。日本人にとって2億円のタワマンといえば大変な高額だが、香港人にとってはさほどではない。
というのも、香港で、香港島のビジネスの中心地である中環(Central)から近い高級住宅地である半山区(Mid-Levels)でマンションを買おうとすると、築5年程度の中古マンションの約50平米の部屋でも4億円くらいする。だから、彼らから見た場合、日本のタワマンは格安に感じてしまうのである。
補足すると、外国人で日本非居住者の場合、日本の銀行でローンを組むことはできない。また、香港の銀行は日本の不動産を担保としてローンをつけてくれることもない。つまり、購入にあたっては現金一括払いの一択だ。
【施設】ジムありを希望も、日本のマンション事情から譲歩
香港では30階以上の高層マンションが一般的なことから、タワマンは特別な存在ではないが、ある程度以上のクラスの高層マンションには、ジムが付いているのが一般的であり、プールが付いているものも珍しくない。
タワマン購入希望の香港人弁護士は、気軽に運動できる環境を求めており、ジムありの物件を希望していたが、日本のマンションにはジムがないものも多いと説明したところ「近くにジムがあるなら、マンションになくても構わない」と条件を修正してきた。
【その他】途中から「デベロッパー」にもこだわりはじめ…
当初の希望にはあがっていなかったが、途中からデベロッパーも気にするようになった。
香港のマンションは築10年にもなると、かなり古びてしまう物件もある。その一方、一流のデベロッパーが開発した物件は、管理が行き届いて古びない。
日本の場合は香港ほど差が出ないのだが、一流デベロッパーが手掛けた物件であれば、古くなっても値が下がりにくく、ときには「ビンテージマンション」と呼ばれるまでになることもある。
そうした話をするうちに、この香港人弁護士もデベロッパーを気にするようになったのである。
東京のタワマン争奪戦「日本人は蚊帳の外」!?
この香港人弁護士が物件探しのために東京に訪れたのは2回。
最終的に気に入ったタワマンは、リビングから六本木ヒルズと東京タワーが一望できる、最高の眺望を誇る物件。
「やっぱりここにする。ここを買うよ!」
香港の銀行に連絡したタイミングと、不動産業者からメールが届いたタイミングはほぼ同時だった。
「該当の物件は、本日内見したお客様が現金一括で購入されました」
どうやら、内覧した別の外国人が即決したようだ。購入寸前、お気に入りの物件をさらわれてしまい、がっくりと肩を落とした。
いまや東京のタワマン市場で熾烈な争奪戦を繰り広げているのは、多額の資金を持つ外国人が多数。ほとんどの日本人は、巨額の現金が飛び交う競争を頭越しに眺めるほかないようだ。
小峰 孝史
OWL Investments
マネージング・ディレクター・弁護士