なぜ銀行の貸金庫を使うのか?
調査官「貸金庫を見せてください」
相続人「それはできません」
調査官「なぜ見せられないのですか?」
相続人「それは……」
こんなやりとりが相続税調査の場面では、たまにあります。警戒心のあらわれなのか、銀行の貸金庫を利用している富裕層は少なくありません。
貸金庫とは、銀行が顧客に貸し出している専用の金庫で、利用するには一般的に月額1万円から3万円ほどの費用がかかります。
富裕層は広い家に住んでいるので、ものを保管するスペースは十分にあります。それでもお金を払って貸金庫を利用しているのは、盗難や災害などのリスクへの備えからでしょう。
貸金庫の出し入れができるのは原則として本人だけですが、あらかじめ代理人登録をしておくことで、家族などが貸金庫の出し入れができるようになります。
そのため、認知症対策などのために、貴重な財産を貸金庫で管理する富裕層もいます。こうした本来の使い方とは別に、「相続税逃れ」のために貸金庫が使われるケースもないわけではありません。
私もかつて相続税調査をした際、貸金庫を使った脱税を見つけたことがあります。
亡くなった被相続人名義の口座から多額の出金があることを把握したのですが、お金の行き先がわかりません。
相続人に聞いても曖昧な返事しか得られず、相続人立ち会いのもとで貸金庫をチェックしたところ、7,000万円を超える札束が出てきたのです。
貸金庫が脱税に使われるのは、税務署の目が届かないと思われているからなのでしょう。でも、そう現実は甘くありません。
税務調査をする国税職員には、金融機関を調査する権限があります。たとえ相続人が隠したとしても、いずれ貸金庫の契約状況などは明らかになるのです。やろうと思えば、貸金庫の開閉履歴もチェックできます。
もっとも、一般的な税務調査では、貸金庫を国税職員が勝手に開けるようなことはありません。あくまでも相続人の立ち会いのもと、なかを見せてもらいます。
貸金庫のなかを見る瞬間は、やはり興奮します。ときどき、「開かずの金庫」を開けるテレビ番組を見るのですが、鍵開け師が金庫を開けて中身があらわになる瞬間は、税務調査のときの感覚を思い出します。