「金持ち喧嘩せず」は本当だった
あくまでも私の主観ですが、富裕層には独特の落ち着いた雰囲気があります。これは、所得税調査と相続税調査の違いから感じる点でした。
所得税調査の場合、現役の事業者などが相手になるのですが、強い抵抗に遭う場面が少なくありません。「帰れ!」と怒鳴られたことや、家にいるはずなのにチャイムを鳴らしても徹底的に無視されたことなど、私も何度かシビアな経験をしたものです。
ところが、富裕層の相続税調査のときは、むしろ丁寧に対応してもらえることが多かったのです。
まだ私が新人だった頃、緊張しながら富裕層の家庭に相続税調査に出向くと、手づくりのケーキが用意されていたこともありました。ただ、上司から「食事の提供を受けてはならない」と厳命されていたので、心苦しくもお断りせざるを得ませんでした。
1人暮らしをしている高齢女性の相続人から、アフリカの特別な豆を使ったというコーヒーを、「もう飲む人がいないから、ぜひ飲んでいってください」と出していただいたこともあります。
また、調査を終えて帰ろうとすると、「今日はありがとうございました」といわれ、税金をとり立てる身としては、なんともいえない気持ちになったことも覚えています。私としては、抵抗を受ける覚悟で調査に臨んでいただけに、拍子抜けをする思いでした。このような応対ぶりから感じたのが、富裕層がもつ独特の余裕だったのです。
お金があることが、精神的なゆとりにつながることは間違いありません。
心の知能指数とよばれる「EQ」(Emotional Intelligence Quotient)と年収に相関関係があるという統計もあります。EQ の調査を行うTalentSmartの研究によると、生産性が高い「ハイパフォーマー」の90%はEQが高く、平均して毎年約3万ドル(420万円=1ドル140円換算)多く稼いでいるそうです。
心理学者のダニエル・ゴールマン氏によると、EQは自分の努力で高められるそうです。他人の立場になって物事を考えたり、意識的に謙虚に振る舞ったりすることは、EQを高める効果があるとされています。
EQを高めることが生産性や収入の向上にもつながり、精神的なゆとりにつながるでしょう。つまり、EQと収入の間に、よいスパイラルを生み出せます。収入を上げたければ、まずは身近な人に対して謙虚になり、礼儀正しくふるまうことからはじめてみるといいかもしれません。