写真提供:THIS ONE

知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「木造の中高層建築物」。脱炭素への取り組みをはじめとした環境意識の高まりで注目を集めていますが、高コストがネックとされてきました。しかし、その流れに大きな変化が生じようとしています。

「木造マンション」が次々に登場

このようなことを背景に、中高層の木造住宅が相次いで供給されています。三井ホームは、2021年に東京都稲城市に、5階建(1階RC、2階〜5階木造、総戸数51戸)のモクシオン稲城を竣工させたのを皮切りに、木造賃貸マンションを積極的に展開しています。木造でも一定の条件を満たせば、アパートではなく、マンションと表記できるようになったこともあり、人気を集めているようです(図表2)

 

【図表2】

 

従来、木造の集合住宅は「アパート」という表記しかできませんでしたが、大手賃貸募集サイト事業者や住宅メーカーなどが共同で広告等の掲載ルールを改訂し、次の基準を満たせば、「木造マンション」と表記できるようになりました。

 

(1)共同住宅であること

(2)3階建て以上であること

(3)住宅性能評価書を取得した建物であり、以下の条件の両方を満たしていること

・劣化対策等級(構造躯体等)が等級3

・耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)等級3または、耐火等級【延焼の恐れのある部分(開口部以外)】が等級4、もしくは耐火構造

 

他のディベロッパーも木造マンション事業に参入しつつあり、今後、木造マンションの供給が増えていくことになりそうです。

木造中高層のオフィスビルも次々と竣工

木造マンションだけではなく、木造の中高層オフィスビルも次々と竣工しています。たとえば、株式会社大林組は、横浜市に自社の次世代型研修施設として、11階建てのすべての地上構造部材(柱・梁・床・壁)を木材とした高層純木造耐火建築物「Port Plus」を建設しています(図表3)

 

【図表3】

 

また、三井不動産と竹中工務店は、中央区日本橋に地上18階建、高さ約84m、延床面積約28,000m2の賃貸オフィスビル「(仮称)日本橋本町一丁目3番計画」を今年11月に着工し、2025年に竣工の予定です(図表4)

 

【図表4】

 

木造建築物は、上述したように建築時のCO2排出量が少なく、炭素を固定する効果のほかに、木質空間は、執務者の自律神経に好影響を及ぼし、知的生産性の向上につながるという研究結果も出ています。これは、木の色彩や香りにリラックス効果があり、作業効率が向上するものと考えられています。

木造中高層の建築物の課題

このように、地球環境だけではなく、執務環境にもメリットがある木造中高層建築物ですが、いくつかの課題があります。

 

第一に、まだ建築コストが高いことです。中高層建築物に要求される耐火性能を満たすために、構造材をモルタルや石膏で覆うなど、複雑な躯体にする必要があるため、鉄筋コンクリート造で同規模建築物を建てるのに比べて、どうしても高コストになる傾向があります。

 

また、これに関連するのですが、せっかくの木造でありながら、木の構造材を不燃材料で覆うため、どうしても木質感が失われる傾向があります。執務者等の作業効率向上に貢献する木質感を内部空間に最大限には活かせていないということです。

 

そして、今までの木造中高層建築物の事例のほとんどは、大手ゼネコンの設計施工によるもので、純木造ではなく、鉄骨とのハイブリット構造であったり、独自開発の特殊な建材を使用している建物がほとんどです。そのため、中小のゼネコンや地域工務店が手掛けるのには、ハードルが高くなっています。

 

今後、地方の公共建築物や民間建築物の普及を考えると、その地域への経済波及効果という観点から、地元の建設業者でも施工できる工法の開発・普及が望まれるところです。

 

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