高齢父が開設していた「NISA口座」だが…一体どんなもの?
55歳会社員・男性(川崎市在住)
筆者のもとに、このような相談が寄せられました。そもそもNISA口座についてよくわからないとのことなので、まずはNISA口座について見ていきましょう。
「NISA口座」とは、証券会社で特定口座以外に個人が開くことのできる証券口座のひとつです。
本来、一般口座や特定口座で株式や投資信託を運用した場合、配当金・分配金、売却して得た売却益などの利益に20%の税金がかかります。しかし、「NISA」は株式や投資信託で稼いだお金に税金がかからない非課税制度です。つまり、NISA口座で得られた利益は非課税なのです。
さらに、2024年から始まる新しいNISAでは、NISA口座で購入できる金額の上限が1,800万円に引き上げられ、また、NISA口座を永久に使い続けることが可能となりました。さらに、途中で売却しても翌年には投資枠の再利用が可能になるという、とてもお得な制度なのです。
亡くなった父の「NISA口座」、相続に伴う税金はどうなる?
このように、大変お得なNISAですが、NISA口座を持つ方が亡くなった場合、そのままでは、売却はもちろん、配当金・分配金を受け取ることはできません。受け取るためには、相続手続きが必要です。また、「相続税」が課税されます。
NISA口座の相続手続きの流れですが、相続人は、被相続人の死亡を知った日以後、遅滞なく、証券会社へ「非課税口座開設者死亡届出書」を提出します。NISA口座の株式や投資信託を相続人の特定口座へ移管する場合は、「相続上場株式等移管依頼書」も併せて提出する必要があります。その際の相続人の特定口座は、被相続人のNISA口座と同一の証券会社になければいけません。
また、高齢者が長期間運用していた場合、株式や投資信託が値上がりしてNISA口座に含み益が発生している可能性があります。しかし、NISA口座で投資した商品の取得価額よりも、相続発生時までに値上がりしたことで生じた含み益は非課税となるため、「所得税」はかかりません。
相続人の特定口座に移す際には、相続発生日の時価で移すことになります。相続が発生したときには「株式や投資信託を時価で売って解約した」とみなされるためです。
相続人がNISA口座を持っている場合、被相続人のNISA口座の商品をそのまま相続人のNISA口座に移せたら…と考える方もいるかもしれませんが、相続が発生した時点で、被相続人のNISA口座は終了します。
そのため、相続人の方がNISA口座を持っていても、相続人の証券口座に移す場合は一般口座または特定口座に移すことになり、相続人のNISA口座に移すことはできません。したがって、相続によって取得した株式や投資信託はNISAの適用を受けられず、通常通り課税されることになります。
「所得税」と「相続税」の取り扱いに注意しよう
注意すべきは、相続税は所得税の取り扱いと異なる、という点です。
「所得税」は、株式や投資信託の取得価額は、一般的な相続において、被相続人が取得した際の価額が引き継がれます。NISA口座から受入れた株式や投資信託の取得価額も、相続発生日の時価が引き継がれます。
それに対して「相続税」ですが、株式や投資信託の相続税評価額は「相続開始日の終値」「その月の終値の月間平均額」「前月の終値の月平均額」「前々月の終値の月平均額」の4つの価格のなかから、最も低い金額を選択することができます。つまり、相続税評価額は時価と異なるのです。
どの時点での価格で相続税評価をするか、きちんと調べた上で申請をする必要があります。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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