(画像はイメージです/PIXTA)

不動産を相続したものの、売却を希望しているという人は少なくありません。しかし、一般の方の場合、不動産の売却には不慣れであり、どこから着手すべきか、また、なにに注意すべきかわからないと思われます。ここでは、不動産売却を不動産業者に依頼する基本的な方法について見ていきます。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

実家の売却を決意した経緯

長年ひとり暮らしだった80代の母が亡くなり、東京都杉並区にある実家を相続しました。しかし、ひとり息子である私は、湾岸エリアのタワマンを購入し、自分の家族と暮しており、実家に戻る予定はありません。そのため、これを機に実家を手放そうかと考えています。不動産の売却はどのような順番で進めればよいのでしょうか?

 

54歳会社員・男性(中央区在住)

 

相談者の方は、すでに資産価値が高い自宅をお持ちであり、ご自身の資産構成が不動産に偏ったものにならないよう、ご実家の売却を決意されました。ご実家のある東京都杉並区は人気の高いエリアであり、一般的な宅地であるなら、買い手も問題なく探せると推察されます。

 

注意が必要なのは、バブル前後に開発・販売された郊外の宅地です。東京までかなりの時間を要するだけでなく、最寄駅から徒歩数十分、あるいはバスの利用が必須といった利便性の低いエリアでは、今後は一層売却がむずかしくなる可能性が高いからです。

不動産売却…まず行うのは「業者による価格査定」

不動産を売却する際、最初にすべきは不動産業者による価格査定です。不動産の価格は、取得時からの経過年数や、建物の状況によって変化するため、業者による査定が必要になります。

 

査定の際、土地の場合であれば、駅からの距離が近い、角地である、南面道路に接している、整形地である、綺麗な街並みである…といった「その立地なら住みたい」と思う人が多いような条件に当てはまった場合は、価格がプラスされます。

 

査定後に提示される価格は、不動産業者が買主探しを行う場合に、概ね3ヵ月以内に買主が決まる見込みの価格です。

 

不動産の査定には「机上査定」と「訪問査定」があります。

 

机上査定では、周辺の標準的な相場や成約事例に基づいて、売却しようとする物件の価格を推測します。

 

具体的な評価方法ですが、仮に、査定される物件の近くの直近の取引事例を調べ、100m2の土地が5,000万円で成約していたとします。この場合、1m2の単価は50万円であることがわかります。その価格を基本としたうえで、駅からの距離、角地かどうか、道路にどのように接しているか、整形地かどうかなどいくつかのポイントを加味して加算・減算し、最終的な査定価格を決めます。査定される物件が80m2であれば、査定価格は50万円×80m2で4,000万円と評価されます。このような査定方法を「取引事例比較法」といいます。

 

訪問査定とは、机上査定の価格をさらに正確にするもので、実際に家屋や土地の現地調査を行ったうえで価格を推測します。

仲介手数料や費用の目安は?

査定ののち、売却を決断したあとは、不動産業者に依頼することになりますが、その際に気になるのが不動産業者に支払う仲介手数料や費用でしょう。

 

仲介手数料は、不動産取引が成立したときに不動産業者へ支払うことになります。

 

仲介手数料は、400万円超の成約価格の場合に〈売買価格×3%+6万円〉に消費税を加えた金額となります。仮に4,000万円で成約した場合、次のような計算となります。

 

(4,000万円 × 3% + 6万円)×(1+10%)= 1,386,000円

 

それ以外にかかる費用としては、契約時の印紙代、ローンの一括繰り上げがあれば、返済手数料や、抵当権の抹消登記費用が必要となります。

 

そのほかにも、土地の測量費用は売主が負担します。家屋も売る場合は粗大ごみの回収費用、更地にして売却する場合は家屋の解体費用を、売主が負担するケースもあります。

一括査定サイトの活用と業者選択の注意点

不動産の売却で最も重要となるのは、不動産業者選びです。ここで売却の成否が決まるといっても過言ではありません。

 

最近は「一括査定サイト」がありますので、大手から中小まで複数の不動産業者へ一斉に問い合わせることができます。

 

その際、重視すべきは査定価格の高さではありません。査定価格は、どこの不動産業者のものも、そこまで大きく違いません。逆に、著しく高い査定価格を出してくる業者こそ注意を払うべきだといえるでしょう。

 

不動産業者のなかには、仲介の仕事がほしいがために、高めの査定価格を出す業者があります。このような業者に依頼しても、提示された査定価格通りに売れるとは限らず、むしろ実際の売り出しでは、売買価格を下げて売却することもままあります。

売却を急ぐ場合・急がない場合

不動産業者には2つのタイプがあります。ひとつは士業系の宅建業者、もうひとつが一般の宅建業者です。

 

税理士や司法書士が経営する士業系の宅建業者は、相続時の相続登記、相続税申告や売却時の所得税申告などの手続きをセットで依頼できます。このような士業系の宅建業者を1社と、平均値に近い査定価格を出してきた一般の宅建業者を1社選択し、話を聞いてみることをお勧めします。

 

信頼できる業者かどうかは、オフィスの雰囲気や、面談を通じて感じられる担当者の人柄や能力などから、ある程度は判断できると思います。

 

また、面談を終えて依頼する業者を決めたあと、すぐに契約へ移るわけではありません。契約の前に、訪問査定が行われます。営業担当者が現地を訪問し、図面ではわからない状況、例えば、日当たり、建物の外壁や内装の傷み具合等を確認します。訪問査定後、3日前後で査定の結果が出ます。

 

その査定価格に同意できた場合は、査定価格に基づいて売出し価格を決めます。

 

売出し価格を決定する際に考えなければならないのは、売却を実現するまでの時間です。

 

それなりに時間をかけられるなら、査定価格より高めに設定し、高値での売却を試みることができます。しかし、相続税の納税のために現金化を急いでいる、譲渡所得の損益通算のために年末までに譲渡所得を確定させたい、といった事情がある場合は、査定価格と同じか、それよりも価格を下げて売り出しを行うことになります。

買主候補者から「購入したい」と連絡があったら?

不動産の買主には「一般の方」と「不動産業者」の2種類があります。ここでいう不動産業者は、仲介ではなく「買取り」を行う業者です。

 

買主の候補者から「購入を検討したい」という連絡があった際には、不動産業者が内見の立会いを行います。内見は買主が決まるまで何度も行うことになります。

売買の手続き…「契約・引渡し・決済」までの流れ

買主が決まると、次は「不動産売買契約」の締結に進みます。

 

契約時には、買主と売主が対面して手続きを進めることが一般的です。

 

契約締結時に、買主は売主に対して手付金を支払います。一般的には売買価格の10%が目安です。同時に、売主は仲介手数料の一部を不動産業者に支払います。残りの仲介手数料は決済時に支払うことになります。

 

契約後は、引越し業者・クリーニング業者の手配、電気・ガス・水道の休止手続きなど、引き渡しに向けて準備を行います。住宅ローンがある場合は、金融機関で繰り上げ返済の手続きをすませておきましょう。

 

一般的に、契約→引渡し→決済まで、およそ1ヵ月の期間をとります。

 

決済は、買主が銀行借入れを行う場合、借入れを行う金融機関の応接室を借りて、不動産業者の営業担当者と買主側の司法書士の立会いのもと、売主と買主が手続きを行います。

 

その際、買主は手付金を差し引いた残金を売主の預金口座へ振込みます。確認できれば、司法書士がすぐに所有権移転登記の申請を行います。

 

手続きの完了後、買主に鍵を引渡します。最後に、売主は仲介手数料の残金を不動産業者に支払いをして、売却が完了します。

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

★不動産売却を不動産業者に依頼する方法についてはこちらをチェック!

「不動産売却の手引き」業者選びから査定までの完全ガイド

 

★不動産の評価についてはこちらをチェック

【不動産の評価額】土地の路線価方式から建物の固定資産税評価額まで解説!【FP3級】

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