4― 借換にかかる成功体験の有無
日本においても消費者物価指数(総合)の前年比は足元で3%台に達しており、インフレ圧力が強まる中でいつまで低金利が継続するか、注視されている。
7月下旬に日銀はイールドカーブコントロールについて変動幅を拡大し、事実上、長期金利については上昇を容認した。
しかし、長期金利が影響するのは住宅ローンの中では固定金利タイプだけであり、変動金利タイプの住宅ローン金利が影響を受けるのは短期金利であるので影響を受けない。
日銀がマイナス金利を解除して短期金利も引き上げるのは賃上げの流れが定着して2%の物価目標が安定的かつ持続的に達成できたと確信してからになると見られており、現状はまだ距離があると植田総裁も発言していることから、当面は低金利の恩恵を享受したいと考えるのは自然なことかもしれない。
しかしながら、アメリカでは基本的に住宅ローンは固定金利で借りて、金利が低下した場合は借り換えればよく、上昇した場合は低利で固定しておく※2という形で、固定金利を活用している。
年収の数倍となる住宅ローンについて、アメリカでは相対的に高い金利変動のリスクを回避していると言える。
日本では90年代に市場金利が急低下するなか、低金利の恩恵を受けたい債務者は住宅金融公庫の固定金利から民間の変動金利へ借り換えていった。
民間の変動金利に借り換えても本格的な金利上昇を経験しなかったことで、その後も固定金利から変動金利への借換が進んでいった。
後に【フラット35】で借換も利用できるようになったが、その時点では既に低利の変動金利が長期に亘り継続していたため、固定金利から固定金利への借換のメリットが失われていた。
このように、アメリカとは異なり、固定金利から固定金利への借換によるメリットがなかったことも、日米の消費者の行動パターンの違いの大きな要因と思われる。
日本では長らく金利が低下局面にあったため変動金利のリスクは顕在化しておらず、当面は短期金利の上昇もないと見る向きが多いと見られる。
しかし、日本においても40年ぶりとも言われる物価高騰等で、これまでの30年余とは違って本当に金利上昇があるかもしれない。
金融機関には変動金利の住宅ローンのリスクについて引き続き適切な説明が求められるとともに、借りる人も十分にリスク等を理解した上で、固定金利と変動金利のどちらが良いかを判断する必要があるだろう。
※2 このことが、足元で利上げが続くアメリカの住宅市場で影響が緩和される要因となっていると内閣府「世界経済の潮流 2022年 II」は分析している(同61ページ)。
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