10月の調査結果は「回復傾向に一服感」
~現状判断DI(季節調整値)は3ヵ月連続で前月から低下、景気判断の分岐点50を2ヵ月連続やや下回る。回復傾向に一服感。
10月の『景気ウォッチャー調査』では、現状判断DI(季節調整値)は49.5と前月から0.4ポイント低下しました。2ヵ月連続で景気判断の分岐点50をやや下回りました。家計動向関連DIは、飲食関連が前月から4.3ポイント上昇したものの、住宅関連が前月から2.2ポイント低下したことなどから49.5で横ばいとなりました。企業動向関連DIは、製造業、非製造業とも前月から低下したため、前月から1.5ポイント低下し49.0になりました。雇用関連DIは50.4と50超になったものの、前月から1.1ポイント低下しました。また、10月の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差1.1ポイント低下の48.4となりました。
内閣府は、『景気ウォッチャー調査』の現状判断を5月から8月までは「緩やかに回復している」にしてきましたが、9月には「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる」に、22年7月以来14ヵ月ぶりに下方修正していました。但し、先行きの判断は「先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」に据え置きでした。
10月の調査結果に示された景気ウォッチャーの見方は、「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」と、9月と同じ判断になりました。
新型コロナは景況感に大きく影響する材料ではなくなりつつある
~「新型コロナウイルス」関連判断DI 、現状も先行きも景気判断の分岐点50を上回るが、コメント数は先行き判断で初の2ケタに低下、景況感への影響力は小さく。
10月の『景気ウォッチャー調査』で、「新型コロナウイルス」関連判断は、現状判断で91人がコメントしDIを作ると58.5と景気判断の分岐点50を上回る水準です。先行き判断で「新型コロナウイルス」関連のコメントは83人で、関連DIは59.6になりました。
コロナ禍が始まったばかりの2020年2月・3月には先行き判断で1,000名を超えるウォッチャーがコメントし、DIが50を大きく下回っていましたが、先行き判断のコメント数が23年10月に初めて2ケタに低下しました。「新型コロナウイルス」は景況感に大きく影響を与える材料ではなくなってきています。
一方、「価格or物価」が景況感の足を引っ張る
~10月「価格or物価」関連判断DI、現状も先行きも景気判断の分岐点50を下回り、景況感の足を引っ張る。
10月の『景気ウォッチャー調査』で、景況感の足を引っ張った悪材料として目を引くのは9月に続き「価格or物価」関連の判断です。現状判断で242人がコメントしDIを作ると43.9で、221人がコメントし45.1だった9月から1.2ポイント低下しました。景気判断の分岐点50を下回る水準が続いています。先行き判断で「価格or物価」関連のコメントは352人で、関連DIは42.4です。こちらは41.9だった9月から0.5ポイント改善しましたが、景気判断の分岐点50を下回っています。ロシアのウクライナ侵攻で始まり国際商品市況が急騰した22年の「価格or物価」関連DIの水準よりは上昇しているものの、総じてみると、「価格or物価」関連は景気ウォッチャーが景況感にマイナスの影響を与えている項目と考えられます。
高水準だった「外国人orインバウンド」関連DIに変化の兆し?
~10月の「外国人orインバウンド」関連DI、現状判断DIは60台だが、先行き判断DIの18ヵ月ぶりの50割れが気懸かり
10月の『景気ウォッチャー調査』で、「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは62.0と景気判断の分岐点50を上回る水準で、22年9月以降14ヵ月連続、60台or70台の高水準で推移しています。
一方、先行き判断で「外国人orインバウンド」関連DIは49.9です。こちらは22年4月の46.9以来18ヵ月ぶりの50割れになりました。変化の兆しかどうか、引き続き注視したいところです。
なお、「外国人orインバウンド」関連のコメント数は、新型コロナウイルスが流行していて外国人の入国が規制されていた時期は極めて少ない状況で、外国人orインバウンド」関連のコメント数は、21年9月・10月は1人だけでした。23年6月から10月の5ヵ月は70人台・80人台の高水準で、その景況感に与える影響が大きいことがわかります。
中東情勢はどう判断されたか?
~「中東orイスラエル」「ウクライナ」、「ロシア」関連先行き判断のDIは、景気判断の分岐点50を大きく下回る水準に。
「中国」、「ウクライナ」、「ロシア」、さらに「中東orイスラエル」関連判断の10月の現状判断DIは全て50で、「変わらない」という判断が多くありました。また「ハマス」という言葉を使ったコメントはありませんでした。
先行き判断DIは、「中国」関連DIがインバウンドへの期待感があることなどで55.4と50超になった一方、「ウクライナ」、「ロシア」、「中東orイスラエル」関連は各々、33.9、41.7。34.0と景気判断の分岐点を大きく下回る水準になっています。
「減税」はどう判断されたか?
~「政治」「減税」などの先行き関連判断DIからわかる、景気ウォッチャーの厳しい見方
政府は、デフレ完全脱却のための総合経済対策を決めましたが、「政治」「減税」などへの10月の先行き関連判断DIからみると、景気ウォッチャーの厳しい判断が感じられます。
「政治」先行き関連判断DIは37.5とかなり低めの水準になりました。7名がコメントした「増税」先行き関連判断DIは35.7で、「増税」なので、低い水準になるのは、わかります。しかし、通常は景況感のプラスに作用するはずの「減税」にコメントした36人の判断から作成した「減税」先行き関連判断DIは45.1で、景気判断の分岐点の50を下回ってしまいました。「減税」の期待される効果が、景気ウォッチャーに届いていない状況であることがわかります。
長期金利が上昇し始めている状況下、「金利」関連DIは、現状判断DI、先行き判断DIとも景気判断の分岐点50を下回る40台になりました。
なお、今回の景気ウォッチャー調査の調査期間では、日本シリーズは日程の関係で第4戦から第7戦の情報が反映されていないので、コメント数は少なかったのですが、「在阪球団優勝or日本シリーズ」関連DIは現状判断DIが58.3、先行き判断DIが75.0と景況感にプラスに働くことがわかります。
※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。 さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。 現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。