「価値観の違う相手とどう話せばいいのかわからない」「こちらの話は聴いてもらえず、一方的に話されてしまった」コミュニケーションの悩みは尽きないもので、ちょっとしたことで相手に不快感を覚えたり、逆に不快感を与えてしまったりすることは多々あります。研修講師として民間企業、官公庁の研修・講演の講師の仕事を歴任し、25万人以上への指導経験を持つ、日本アンガーマネジメント協会理事である戸田久実氏の著書『アクティブ・リスニング ビジネスに役立つ傾聴術』(日経文庫)より、一部抜粋して紹介する本連載。特に職場のコミュニケーションを円滑にし、人間関係を劇的に改善する「傾聴」の極意について紹介します。
信頼関係の構築につながる「習慣」
聴き手が話を聴いているということが、話し手に伝わるように表現する聴き方のことを「アクティブ・リスニング」と言います。 身につけるには、相手の話を理解し、ときに共感しながら聴き、さらには、相手の話を引き出す発展的な質問ができることが求められますが、アクティブ・リスニングが習慣化すると、相手との相互理解が生まれ、信頼関係の構築へとつながっていくのです。
近年は、価値観が多様化してきました。そのようななかで相手との価値観の相違を埋めていくには、「話す」ことも大切ですが、「聴く」力も必要とされています。組織の心理的安全性を叶えるには、キャリア・ポジション・立場の違う相手の話に耳を傾けられることが必須要素となるのです。
マネジメント層だけでなく「部下」の立場にも求められるスキル
アクティブ・リスニングができていない人は、思っている以上に多いものです。
アンガーマネジメント(怒りと上手に付き合うための心理トレーニング)の研修をしていると、自分と違う意見に触れることでイラッとしたり、憤りを感じたり、相手の話に素直に耳を傾けられなくなったりしてしまうというケースを耳にすることが多々あります。
あなたはいかがでしょうか。相手の話を突っぱねる、相手をやり込めてしまう、いかに自分の意見が正しいかを主張し、論破してしまうということはありませんか?
長年研修やコンサルティングをしていると、相手の話を聴けない人の話や、会話が成立しない人からの相談は後を絶ちません。
「上司の面談で話を聴いてもらえなかった」
「話を十分に聴いてもらえず、一方的に話されてしまった」
このような不満やストレスを抱えている人は大勢いるのです。
一方で、コロナ禍によってリモートワークが増えたことで、報告・連絡・相談といった必要最低限のコミュニケーションだけになってしまい、部下が抱えている悩みに耳を傾けることができていないと感じている管理職も増えています。
アクティブ・リスニングは、部下がいるマネジメント層には、より求められているスキルです。もちろん、マネジメント層のみではなく、部下の立場でも求められる場面はあります。職場での指示に対して、上司の話を表面的に聴くだけで、
「なぜその指示があるのか?」
「この組織ではこのやり方なのか?」
疑問を持っても、質問しない人もいます。そのことが原因で、意図が理解できずに進めてしまいトラブルになってしまったという話も耳にします。「上司がすべてをわかるように言ってくれなかったから」と報告してくる人もいるのですが、疑問を持ち、上司の話を引き出し、確認できなかった側にも責任はあるものです。
このようなとき、アクティブ・リスニングのスキルは、相手の話を引き出し、確認するためにも役立ちます。職場の心理的安全性を実現し、ビシネスを円滑に進めるためにも必要なビジネス能力と言えるのです。