(写真はイメージです/PIXTA)

東京証券取引所は、継続的にPBRが1倍を割れている上場企業について改善策の開示を要請しています。その要請をきっかけに、自社株買いの設定が増える可能性が指摘されていました。そこで本稿では、ニッセイ基礎研究所の森下千鶴氏が、2023年6~9月の自社株買い動向について解説します。

PBR1倍割れ企業の株価はPBR1倍以上より大きく反応

自社株買い設定の発表は、アナウンスメント効果もあり株価には一般的にプラスに働くと考えられている。過去の集計では、平均して2~3%はTOPIXを超過する傾向があった。

 

2023年6~9月に自社株買いを設定した企業の株価はどうであったか。図表3は、自社株買いの設定を発表した企業全体およびPBR1倍以上とPBR1倍割れの株価推移をまとめたものである。

 

左は2023年6~9月に自社株買いの設定を発表した企業、右は2018~2022年の6~9月に自社株買いを設定した企業について、自社株買い設定日を基準日(0日)として、対TOPIX超過収益率を単純平均している。

 

①、④の灰色は自社株買い設定企業全体、②、⑤の青色はPBR1倍以上の企業、③、⑥のオレンジ色はPBR1倍割れ企業の株価推移である。

 

 

図表3を見ると、①の2023年6~9月に自社株買い設定を発表した会社全体では、発表翌営業日に対TOPIXで2.5%上昇と、④の2018~2022年6~9月の過去5年平均と同程度、上昇している。

 

その後はほぼ横ばいで推移しており、2023年6~9月も引き続き自社株買い実施企業の株価は投資家からはポジティブに反応されていたようだ。

 

PBR1倍以上とPBR1倍割れ企業で株価推移に違いがあるか確認したところ、③の2023年6~9月に自社株買い設定を発表したPBR1倍割れ企業の株価は、発表翌営業日に対TOPIXで約4%上昇と、②のPBR1倍以上企業より約2%も大きく上昇し、その後もその差が維持されていた。

 

⑤⑥の過去5年平均や2023年4~5月は、PBR1倍以上とPBR1倍割れ企業で株価推移に大きな差は見られなかったため、2023年はこれまでと変化がみられるといえよう。

 

ただし、自社株買いの実施は決算発表と合わせて公表されることが多いため、図表3の結果をもってPBR1倍割れ企業の自社株買いが、2023年に入ってより好意的に評価されたとは、一概には言えない。

 

実際、今期業績見通しの下方修正や大幅減益を発表している企業は自社株買いの実施を発表しても、株価は下落する傾向が強かった。あくまでも業績に安心感や成長性が感じられなければ、自社株買いを実施しても評価はされないということだろう。

 

とはいえ、PBR1倍割れ企業には好調な業績見通しとともに資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応策を発表している企業もあり、こうした企業の姿勢の変化が今までよりも注目を集めた可能性はありそうだ。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月30日に公開したレポートを転載したものです。

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