(写真はイメージです/PIXTA)

東京証券取引所は、継続的にPBRが1倍を割れている上場企業について改善策の開示を要請しています。その要請をきっかけに、自社株買いの設定が増える可能性が指摘されていました。そこで本稿では、ニッセイ基礎研究所の森下千鶴氏が、2023年6~9月の自社株買い動向について解説します。

自社株買いへの意欲は高い

まずは、2023年4~9月の状況を確認する。TOPIX構成銘柄企業の自社株買いの設定件数は383件と2018年4~9月以降最大だった。設定金額は5.4兆円と2022年4~9月の5.7兆円は下回ったものの、過去5年平均の4.1兆円は大幅に上回った。

 

PBR1倍割れ企業の自社株買いが劇的に増加した傾向は見られず

東京証券取引所は、中長期的な企業価値向上に向けた取組みの動機付けの一つとして、継続的にPBRが1倍を割れている上場企業について改善策の開示を要請している。

 

これをきっかけに、資本効率の改善や企業価値の向上がより強く意識され、自社株買いの設定が増える可能性が指摘されていた。

 

そこで「2023年4~5月の自社株買い動向」(2023年6月22日付)のレポートでは、2018~2023年の4~5月に自社株買いを設定した企業をPBR1倍以上と1倍割れで分け、2023年4~5月とそれ以前で変化があるのか確認した。

 

その結果、2023年4~5月は、PBRの水準によらず設定金額や件数が劇的に増加した傾向は見られなかった。

 

今回は、同様に2023年6~9月の自社株買い設定動向について集計した。図表2は、PBR1倍以上とPBR1倍割れで分けて集計した設定金額及び設定件数の年ごとの6~9月の推移である。PBRは、2023年6~9月であれば2023年3月末時点の値を基準としている。

 

棒グラフは各年6~9月の設定金額及び設定件数の合計を、折れ線グラフは、PBR1倍割れの企業の数字が全体に占める割合を示している。

 

 

2023年6~9月全体の設定金額は1.41兆円と2022年6~9月の1.51兆円、過去5年平均の1.6兆円を下回った。2020年はソフトバンクグループ1社が1.5兆円の自社株買い実施を発表しているため単純に比較はできないものの、2023年6~9月の設定金額は、2019年以降の6~9月では最も低かった。

 

ただし、設定件数は、145件と2022年の141件を上回り、過去5年平均の132件も上回った。例年と比較すると、自社株買いを実施する企業は増えたが、設定金額自体は相対的に小さかったようだ。

 

次に、PBR1倍割れ企業について確認したところ、設定金額は0.55兆円と2022年の0.87兆円は下回ったが、過去5年平均の0.51兆円は上回った。設定件数も63件と、2022年の73件は下回ったが、過去5年平均の60件は上回った。

 

2023年6~9月に2000年4月以降初めて自社株買いを実施した企業は6社あったが、そのうちPBR1倍割れの企業は1社のみだった。

 

設定金額、設定件数ともに過去5年比較では増加しているものの、2022年を下回っており、2023年6~9月についても4~5月と同様に自社株買いの設定が特に増えている様子は見られなかった。

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月30日に公開したレポートを転載したものです。

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