(※画像はイメージです/PIXTA)

自動車保険は強制加入の「自賠責保険」と任意加入の「任意保険」の2段構えになっています。交通事故で人を死傷させた場合に、被害者の救済を確保するための制度とされています。ところが、この制度のあり方が、かえって被害者救済の理念を妨げているとの指摘がなされています。どういうことなのか。自賠責保険の内容と、被害者救済という観点からの問題点について解説します。

◆物損事故でも賠償額が「億単位」になることも

なお、自賠責保険がまったくカバーしない「物損事故」の高額賠償事例についても紹介しておきます。

 

損害賠償責任の対象となるのは、事故によって損傷したモノ自体の損害だけではありません。モノが使えなくなってしまったことによる「逸失利益」の損害(消極損害)も対象となれば、賠償金額が膨れ上がることがあります。

 

たとえば、自動車が店舗や工場に突っ込み、建物、機械設備、商品等を損傷して営業できなくなってしまった場合、モノ自体の損害に加え、営業できない期間の逸失利益まで損害賠償の対象となります。

 

過去の賠償事例をみても、損害賠償額が億単位となったケースがあります([図表3]参照)。

 

日本損害保険協会「ファクトブック2023」より
[図表3]物損事故の高額判決例 日本損害保険協会「ファクトブック2023」より

 

「任意保険」の加入は必須

このように、自賠責保険だけでは、交通事故を起こした場合の損害賠償金等をカバーすることは到底無理なケースが多いのです。したがって、「任意保険」に加入することは必須だといえます。

 

任意保険には人身事故を対象とする「対人賠償保険」、物損事故を対象とする「対物賠償保険」が含まれており、かつ、賠償金額は「無制限」です。

 

しかも、以下のような補償を「特約」で追加することができます。

 

【任意保険の主要な特約】

・人身傷害保険・搭乗者傷害保険:自分や同乗者が死傷した場合の補償

・車両保険:自分のクルマが事故で損傷したり盗難被害に遭ったりした場合の補償

・個人賠償責任保険:日常生活における交通事故以外の対人・対物事故の補償

「任意保険」に入らないと加害者も被害者も「地獄をみる」

もしも、ドライバーが任意保険に加入していない状態で事故を起こし、人を死傷させてしまったら、ドライバー(加害者)本人だけでなく、被害者側も地獄をみることになりかねません。

 

まず、加害者についていえば、莫大な額の損害賠償債務を負い、払えずに破産するしかありません。自己破産により免責されることがあるとしても、道義的・社会的非難を免れることはできません。

 

一方、被害者ないしその遺族は、十分な額の損害賠償金を受け取ることができません。法律上は損害賠償請求権が認められていても、加害者に資力がなければ、行使できません。強制執行をしても空振りになってしまいます。結果的に、泣き寝入りせざるをえないのです。

「約4人に1人」が任意保険不加入…自賠責保険の存在が被害者救済の妨げに!?

ところが、統計をみると、ほぼ4人に1人が任意保険に加入していないという実態があります。2022年3月末時点で、日本全国の「対人賠償保険」「対物賠償保険」の加入率は、「対人賠償保険」が75.4%、「対物賠償保険」が75.5%にとどまります(損害保険料算出機構「2022年度 自動車保険の概況」参照)。

 

任意保険に加入していない人のなかには、「自賠責保険に加入しておけば大丈夫」「任意保険の保険料を払うのはもったいない」などと考えている人が含まれているものとみられます。こうなると、自賠責保険の制度があることで、交通事故被害者の救済の妨げになってしまいかねません。

 

自賠責保険の制度ができたのは1955年です。当時は、まだ自動車が普及していませんでした。しかし、それから70年近くが経過しています。自動車は当時とは比べものにならないほど普及しており、交通事故の件数も著しく増大しています。

 

交通事故による損害のごく一部しかカバーできない自賠責保険は事実上あまり役に立たず、むしろ、それがあることで、被害者救済の妨げになってさえいます。自賠責保険の内容を少なくとも任意保険の「対人賠償」「対物賠償」と同レベルの補償とする、あるいは、自賠責保険の制度自体を廃止して任意保険への加入を義務化するなど、自動車保険の制度設計自体を根本的に見直す余地があるといえます。

 

 

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