“未だに”「設備投資」を重視する日本企業…SONYの「会社設立の目的」に見る、日本企業が〈急務で取り組むべきこと〉

“未だに”「設備投資」を重視する日本企業…SONYの「会社設立の目的」に見る、日本企業が〈急務で取り組むべきこと〉
(※写真はイメージです/PIXTA)

企業は、お金の使い方で「稼ぎ」が決まります。お金の使い道には、大きく分けて「原材料や商品の仕入れ」、「業務を回すための費用」、「未来のための投資」の3種類があります。この中で、特に慎重な判断を要するのが「未来のための投資」です。戦略費とも呼ばれ、企業のビジョンが色濃く反映されます。戦略費の使い方を見れば、その企業の将来性が測れると言っても過言ではありません。本記事では、自身も社員数50名の新聞販売店を23年間経営した経験を持ち、多くの企業の経営支援に携わる米澤晋也氏が、時代の変化と企業の戦略転換の実務について事例を交え解説していきます。

 

日本企業で“未だに主流となっている”経営手法

2022年に経済産業省が発表した「未来人材ビジョン」という白書の中で、「投資家が、中長期的な投資・財務戦略において、最も重視すべきだと考えているものは『人材投資』であるが、企業側の認識とギャップがある」という問題提起がなされています。

 

投資家の67%が人材への投資を望んでいるのに対し、企業側では32%に留まっています。では、企業はどこに重点を置いているかというと、設備投資です(投資家が20%なのに対し、企業側は55%)。投資家と企業との間には、認識に大きなズレがあることが分かります。

 

認識の差は、ビジョンの違いから生まれます。企業側は、従来の「たくさん作って(仕入れて)たくさん売る」という工業社会の延長線上でビジョンを描いているのに対し、投資家側は、新しい社会(知識社会、感性社会)のビジョンを求めているのです。創造性の源である人材への投資が欠かせないと考えていることがうかがえます(具体的には、「採用」と「教育」への投資になりますが、本記事では教育分野にフォーカスします)。

 

かつて、日本の経済発展は工業社会の発展とともにありました。生活者が、モノに満たされていなかったことに加え、人口増加期が続きました。企業にとっては、モノを効率よく作り(あるいは仕入れ)、効率よく市場に流すことが、「稼ぎ方」の王道でした。

 

当然、戦略費は設備投資に投入されます。設備投資により、大量生産・大量仕入れが実現し、変動費(原価)が下がり、良いモノを数多く安く市場に提供できるようになりました。

 

工業社会の経営に必要な人材は、基本的な読み書きそろばんができ、定められた手順書に従える、従順な人材です。教育界はそのニーズに応え、決められた解に効率よく到達できる人を数多く輩出しました。当然、組織の体制は一極集中のトップダウン型になります。

「感性社会」の現代に必要な経営

時代は変わり、一通りのモノが生活者に行き渡ったことに加え、人口減少期に入り、成熟社会に入りました。それに伴い「欲しい物が分からない」という生活者が増えています。

 

私の友人が数年前にカフェを開業しました。友人は、どんなカフェが流行るか、消費者にアンケートを取りましたが、的を射た答えが返ってこなかったため、自分なりの世界観でカフェの店内やメニューをデザインしオープンしました。

 

それが非常に好評で、瞬く間に地域に口コミが広がりました。私も何人もの友人から評判を聞いたのですが、多くの人が「“いい感じ”のカフェができた」と紹介するのです。私が「“いい感じ”って?」と聞いても、曖昧な答えしか返ってきません。友人たちの語彙力が乏しいわけでは決してなく、カフェの価値が、抽象度の高い(感性価値が高い)ものなのです。機能やスペックでは評価できないため、表現が難しいというわけです。

 

事前のアンケートでは欲求を表現できず、提供されて初めて、自分が欲しいものに気づくのです。このようなエピソードは数え切れません。

 

感性価値を重視する社会を、私は「感性社会」と呼んでいます。「感性社会」の経営には創造性が必須です。人材への投資が欠かせません。創造性は、個々の能力もさることながら、組織風土に大きな影響を受けます。人材投資は組織の風土醸成とセットで考え、投資のウェイトを変えなければならないと考えています。

 

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