課題解決アプローチで分類する「FinTech」のカテゴリー③

今回は、課題解決アプローチで分類する「FinTech」のカテゴリーの中で、「セキュリティ技術向上」「ソフトウェア・クラウド等によるユーザー側の事務コストの省力」について見ていきます。。※本連載は、西村あさひ法律事務所の有吉尚哉弁護士、本柳祐介弁護士、水島淳弁護士、谷澤進弁護士の編著書籍、『FinTechビジネスと法 25講』(商事法務)の中から一部を抜粋し、近年、大きな注目を集めている「FinTech」の概要や関連法制について紹介していきます(本稿は、上記書籍の1講の抜粋です)。

オンライン特有の危険性を防ぐセキュリティ技術

前回に引き続き、課題解決アプローチによる「FinTech」のカテゴリーを見ていく。

 

4.セキュアな技術の創出

 

【図表】課題解決アプローチの類型

具体例

①金融機関向けセキュリティシステム(本書『FinTechビジネスと法 25講』第25講)

②ビットコイン・ブロックチェーン(本書第18講、第19講、第20講)

 

より根源的な技術により金融サービスの安定性を維持し、また、これまでの金融サービス・体制を一新する事業も出現しつつある。

 

オンラインでのサービス提供に伴うなりすまし等の危険やサイバー攻撃のリスクの中で金融サービスの安定性を確保するためにはセキュリティの技術革新が不可欠であり、そういった技術を事業とする会社も出現し続けている。また、ビットコイン・ブロックチェーンは、技術により貨幣という金融のおおもとを一新しようとする試みであると言える(ブロックチェーンはFinTech以外の領域でも利用が可能である)。

 

これらのカテゴリーにおいては、たとえば、セキュリティの技術であれば純粋な技術としてのセキュリティの追求のみならず当局の検査実務の動向にも即応していかなければならない。また、ビットコイン・ブロックチェーンについては法律のみならず根本的な制度としてもさまざまな検討事項が存在する。

ユーザー側の事務コストの省略化にも貢献

5.ソフトウェア・クラウド等によるユーザー側の事務コストの省力

具体例

①決済サービス・決済API(本書『FinTechビジネスと法 25講』第16講、第17講)

②海外送金サービス(本書第16講、第17講)

③事業者向け金融関連業務のSaaS(本書第22講)

④新しいタイプのスマホ証券・オンライン証券(本書第13講)

 

最後に、さまざまなアプローチで金融取引等の当事者たるユーザー側の事務コストを低下させることを付加価値とするさまざまなビジネスも出現している。一般消費者向けの決済サービスや送金サービスは、一般消費者や事業者における銀行振込手続などの事務コスト省力による利便性を提供し、また、決済APIなどは、商品・サービスを販売する事業者における顧客との間の決済および代金回収に関するオペレーションコストを削減する。さらに、事業者向け金融関連業務のSaaSは事業者における経理などの金融関連業務の事務コストの省力を付加価値とするものである。

 

決済や送金に関しては銀行法や資金決済法の遵守が必要となり、外国為替及び外国貿易法や犯罪収益移転防止法上求められる本人確認などの手続の対応も必要となる。

金融機関特有のメリット・デメリット

以上、課題解決アプローチの観点からFinTechのさまざまな類型を検討したが、当然ながらどの類型のビジネスも、規制業種に該当する場合には許認可の取得が必要となり、許認可取得のための種々のコストをあらかじめ分析した上で事業を検討する必要がある。

 

とりわけ、金融サービス事業の特殊性として、適用法規制から要請される自己資本比率や引当ての維持、組織体制要件との関係で、収益構造・事業に必要な組織体制とは無関係にある程度の資金規模・組織体制が必要とならざるを得ない場合が多い。

 

そのため、内部コストを可能な限り削減し、ある程度料率を圧縮しても収益性が維持できるスリムな体制を構築しようとする場合も、そういった自己資本確保や人員体制構築のための資金、その他のリソースを事業開始に相当先立つ段階から調達しなければならず、そのための資金調達戦略その他の戦略も重要となる。

 

ただ、逆に、常にトランザクションを伴うサービスであるという金融サービス一般の特徴からのマネタイズの相対的な容易性や、金融サービスがカバーし得る市場規模の巨大さなどは金融サービス特有の利点であると言え、上記のような金融サービス特有の困難性を相殺するための要素として利用していく余地があるのではないかと思われる。

今後の法規制の動向や当局対応が重要な要素に

現在の世界および日本におけるFinTechの潮流、法的戦略・法的事業モデルデザインの重要性、課題解決アプローチからの大まかなFinTech系ビジネスの分類を概観した。

 

今後も技術の発展、一般消費者や企業におけるFinTech系サービスの認知度・受容度の向上に沿って、全く新しいビジネスモデルや業界における料率を劇的に変えるサービスが出現してくるものと思われる。

 

同時に、法規制もそういった技術の状況・社会の状況に応じて革新されていくものと予想されるが、上に述べたとおり、少なくともある程度長期的にFinTechの分野にはしかるべき法規制は存在し続けるものと思われる。

 

そのため、FinTech分野においては、事業構築や事業の評価にあたってどのように法律と対話していくか、規制や当局と向き合っていくかが非常に重要な要素であり続けることは変わらないと言えるだろう。

西村あさひ法律事務所・パートナー 弁護士 

2004年東京大学法学部卒業、2005年司法修習終了(58期)、2013年スタンフォード大学ビジネススクール(MBA)卒業、2012年〜2014年米国WHILL,Inc.ビジネスディレクター、2007年〜2010年および2015年成蹊大学法科大学院非常勤講師。
【主な著書等】『租税法概説(第2版)』(共著、有斐閣、2015)、『企業取引と税務否認の実務』(共著、大蔵財務協会、2015)、『ビジネスパーソンのための企業法務の教科書』(共著、文藝春秋、2012)、「シティグループと日興コーディアルグループによる三角株式交換等の概要〔下〕」旬刊商事法務1833号(共著、2008)

(第1講担当)

著者紹介

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2001年東京大学法学部卒業、2002年司法修習終了(55期)、2010年〜2011年金融庁総務企画局企業開示課専門官、2013年~京都大学法科大学院非常勤講師、2018年~武蔵野大学大学院法学研究科特任教授。

【主な著書等】
『金融とITの政策学』(共著、金融財政事情研究会、2018)、『ファイナンス法大全(上)(下)〔全訂版〕』(共編著、商事法務、2017)、『ここが変わった!民法改正の要点がわかる本』(翔泳社、2017)、『FinTechビジネスと法25講』(共編著、商事法務、2016)、『資産・債権の流動化・証券化(第3版)』(共編著、金融財政事情研究会、2016)、『平成26年会社法改正と実務対応(改訂版)』(共著、商事法務、2015)

著者紹介

西村あさひ法律事務所・パートナー 弁護士
ニューヨーク州弁護士 

2001年早稲田大学法学部卒業、2003年司法修習終了(56期)、2010年コロンビア大学ロースクール(LL.M.)卒業。

【主な著書等】『ファンド契約の実務Q&A〔第2版〕』(商事法務、2018)、『ファンドビジネスの法務〔第3版〕』(共著、金融財政事情研究会、2017)、『FinTechビジネスと法 25講』(共編著、商事法務、2016)、『投資信託の法制と実務対応』(共著、商事法務、2015)、「株式関連事務におけるブロックチェーンの活用」NBL1168号(2020)、「株式投資型クラウドファンディング業者に関する法的論点と実務」旬刊商事法務2112号(2016)、「上場企業の第三者割当をめぐる法整備の概要」ジュリスト1470号(共著、2014年)、「外国ETF・外国ETFJDRの上場に関する法的論点と実務」旬刊商事法務2034号(2014)、「並行第三者割当の法的論点と実務」旬刊商事法務2024号(共著、2014)、「〔座談会〕ブロックチェーンの法的検討(上)(下)」NBL 1094・1096号(2017)

著者紹介

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士
ニューヨーク州弁護士

2004年東京大学法学部卒業、2006年司法修習終了(59期)、2012年ヴァンダービルト大学ロースクール(LL.M.)卒業、2012年〜2013年金融機関(在ニューヨーク)に出向、2013年〜2014年外資系証券会社(在東京)に出向。

【主な著書等】
『新株予約権ハンドブック(第3版)』(共著、商事法務、2015)

著者紹介

連載法律家による「FinTech」入門

本連載は、2016年7月15日刊行の書籍『FinTechビジネスと法 25講』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

FinTechビジネスと法 25講

FinTechビジネスと法 25講

有吉 尚哉,本柳 祐介,水島 淳,谷澤 進 編著

商事法務

西村あさひ法律事務所所属の弁護士が、「FinTechビジネス」のさまざまな分野ごとに概要を紹介しつつ、それらのビジネス遂行上に必要な法令の基礎知識・適用関係を、平成28年5月25日に成立した改正Fintech関連法も踏まえて解説…

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