今回は、ビットコインなどの暗号通貨(仮想通貨)が抱える政策課題についてお伝えします。※本連載は、西村あさひ法律事務所の有吉尚哉弁護士、本柳祐介弁護士、水島淳弁護士、谷澤進弁護士の編著書籍、『FinTechビジネスと法 25講』(商事法務)の中から一部を抜粋し、近年、大きな注目を集めている「FinTech」の概要や関連法制について紹介していきます(本稿は、上記書籍の18講の抜粋です)。

違法な薬物取引の支払手段に用いられていた事例も

暗号通貨については、さまざまな観点から、政策的な課題が指摘されており、以下ではそのうち主要なものについて述べる。

 

1.資金洗浄・テロ資金供与への懸念

 

1つは、資金洗浄およびテロ資金供与への懸念であり、言い換えれば、資金洗浄対策(AML:Anti-Money Laundering)およびテロ資金供与対策(CFT:Countering Financing of Terrorism)の要請である。2013年10月に摘発されたシルクロード(Silkroad)と呼ばれるオンライン闇市場においては、ビットコインが違法な薬物取引等の支払手段として用いられていたことが知られている。また、「イスラム国」などのテロリストによる脅威が高まる中、テロリストによる資金調達の手段としてビットコインが利用されるおそれが国際的に懸念されている。

 

このような状況(とりわけ後者)を踏まえ、2015年6月、G7エルマウ・サミット首脳宣言にて「仮想通貨及びその他の新たな支払手段の適切な規制を含め、全ての金融の流れの透明性拡大を確保するために更なる行動をとる。」との宣言がなされるとともに、FATFにおいて“Guidance for a Risk based Approach to Virtual Currencies”(以下「FATFガイダンス」という)が公表され、各国に対して換金型仮想通貨の交換所に対するFATF勧告に基づくAML/CFT規制(登録・免許制を含む)の導入が要請された。

 

2.利用者保護の要請

 

2つ目は、利用者保護の要請である。2014年2月、一時は世界最大のビットコイン取引所であったMt.Goxの運営企業が破綻し、利用者から預託された金銭とビットコインが大量に失われていることが判明した。経営者はセキュリティの問題によるものと説明していたが、後に意図的に横領したものとの嫌疑で逮捕・起訴されている。

 

また、アルトコインの中には詐欺的なものも数多く含まれているとみられ、そのような場合を含め、不適切な説明等を用いて不当な暗号通貨の販売を行うような事業者もみられる。

 

これらの例に示されるように、利用者の保護が必ずしも十分でない状況があるため、利用者を保護する観点から事業者に対する一定の規制を導入するなどの施策が求められる。

金融当局は暗号通貨の普及にどう向き合うべきか

3.金融政策への影響

 

3つ目は、金融政策への影響である。法定通貨は、通常、中央銀行によってその価値がコントロールされており、これによって物価の安定が保たれている。暗号通貨が法定通貨の役割を代替していく場合の金融政策への影響については必ずしも明らかではない。

 

4.決済手段としてのインフラ整備

 

上記2および3にも大きくかかわるが、決済手段としての有用性の確保のためのインフラをどの程度整備するかも重要な政策的課題である。具体的には、安心して暗号通貨を取得・利用するための金融規制(業規制や不公正取引規制)や暗号通貨の取引に対する税制の整備を行うべきかといった課題である。

本連載は、2016年7月15日刊行の書籍『FinTechビジネスと法 25講』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

FinTechビジネスと法 25講

FinTechビジネスと法 25講

有吉 尚哉,本柳 祐介,水島 淳,谷澤 進 編著

商事法務

西村あさひ法律事務所所属の弁護士が、「FinTechビジネス」のさまざまな分野ごとに概要を紹介しつつ、それらのビジネス遂行上に必要な法令の基礎知識・適用関係を、平成28年5月25日に成立した改正Fintech関連法も踏まえて解説…

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