今回からは、ビットコインに代表される仮想通貨についてお伝えしていきます。 ※本連載は、西村あさひ法律事務所の有吉尚哉弁護士、本柳祐介弁護士、水島淳弁護士、谷澤進弁護士の編著書籍、『FinTechビジネスと法 25講』(商事法務)の中から一部を抜粋し、近年、大きな注目を集めている「FinTech」の概要や関連法制について紹介していきます(本稿は、上記書籍の18講の抜粋です)。

初めての使用事例は「Lサイズのピザ2枚」の代金

ビットコインとは

 

ミクロネシア連邦に属するヤップ島では、伝統的に、社会的に重要な取引による支払いには巨大な石貨が用いられてきた。石貨による支払いは、石貨自体を移動させることなく、石貨に記載された所有者の名義を書き換えることによって行われた。

 

そして21世紀、公開鍵暗号技術とP2P(peer-to-peer)ネットワーク技術の発展により、いわばヤップ島の石貨のデジタル版というべきものが生み出される。

 

Satoshi Nakamotoを名乗る正体不明の人物が、ある暗号学に関するメーリング・リストに、“Bitcoin:A Peer-to-Peer Electronic Cash System”と題する論文(1)を投稿したのは、2008年11月1日(2)のことであった。そして翌年1月、この論文に基づいて、世界初の暗号通貨(cryptocurrency)、ビットコイン(Bitcoin)(3)が誕生する。ビットコインを用いた確認し得る最初の現実の取引が行われたのは2010年5月22日のことであった。ある米国在住のプログラマーが、1万ビットコインでLサイズのピザ2枚を購入したのである(4)

 

その後、ビットコインは、利用者や支払手段として利用可能な場面の増加とともにその相場は大きく上昇し、本講執筆時点では概ね1ビットコイン当たり500米ドル台を推移している(図表1)。

 

【図表1 bitcoin price index chart】

bitcoin price index chart

改竄や二重取引がきわめて困難なシステム

法定通貨は、通常、中央銀行により発行され、その発行量等のコントロールを通じた物価の安定は中央銀行の主要な任務である。これに対してビットコインは、特定の発行者は存在せず、あらかじめ定められた一定のペースで自動的に生成される仕組みで発行量の上限も定められている。また、サーバ型電子マネーのように特定の第三者が管理するサーバ上の台帳において厳重なアクセス制限の下で記録されるのではなく、P2Pネットワーク上の公開台帳において記録されるのもまた大きな特徴である。

 

これらの特徴から、ビットコインは「信頼された第三者」(trusted third party)を前提としない、何者も信頼しない(trustless)仕組みであるといわれる。すなわち、発行者によって恣意的に供給量がコントロールされたり、特定のサーバがシステム障害やメンテナンスのために停止することでシステム全体が停止したりすることを心配する必要がないのである。

 

他方、中央銀行のようにその価値の安定を図ろうとする信頼された第三者が存在しないことから、その相場は不安定になりがちであるという側面を有する。

 

ビットコインの保有者は、秘密鍵を用いてデジタル署名を行うことで当該秘密鍵に係るアカウントから他の任意のアカウントにビットコインを送付すること(トランザクション(transaction)と呼ばれる)ができ(図表2)、このようなデジタル署名の連鎖によりすべてのトランザクションが時系列に沿って記録されている。

 

【図表2】

トランザクションは、一定量ごとにブロックにまとめられた上でタイムスタンプ処理を伴う承認(confirmation)がなされるが、承認が行われるには対象となるブロックに含まれるトランザクションの情報等を基礎とする一定の計算を解くこと(約10分を要する)が必要な仕組みとなっており(プルーフ・オブ・ワーク(PoW:Proof of Work))、この計算を最初に解いた参加者に報酬としてビットコインが与えられる仕組みとなっている。なお、この計算を解く参加者は採掘者またはマイナー(miner)と呼ばれ、ビットコインの仕組みを支える主要なプレーヤーとなっている。

 

ビットコインを支える分散型台帳(distributed ledger)はこのようなブロックの連鎖によって構成されており、これがブロックチェーン(blockchain)と呼ばれる。ビットコインのブロックチェーン(ザ・ブロックチェーン(the Blockchain)とも呼ばれる)は、P2Pネットワーク上に記録されているという点と上記のプルーフ・オブ・ワークの仕組みが組み合わさることにより、改竄や二重取引がきわめて困難なものとなっているが、このブロックチェーン技術こそが、ビットコインを支える最も画期的な技術とされている(図表3)。

 

【図表3 ビットコインの送付(トランザクション)とブロックチェーンの関係】

⑴https://www.bitcoin.org/bitcoin.pdf

⑵日本時間。欧米では10月31日。

⑶確立したものではないが、プロトコルや暗号通貨の名称としては「Bitcoin」、暗号通貨の単位としては「bitcoin」と綴ることが多い。単位としてのbitcoinはBTCまたはXBTと略称され、最小単位は、0.00000001BTC=1satoshiである。

⑷これにより、毎年5月22日はBitcoin Pizza Dayと呼ばれる。

本連載は、2016年7月15日刊行の書籍『FinTechビジネスと法 25講』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

FinTechビジネスと法 25講

FinTechビジネスと法 25講

有吉 尚哉,本柳 祐介,水島 淳,谷澤 進 編著

商事法務

西村あさひ法律事務所所属の弁護士が、「FinTechビジネス」のさまざまな分野ごとに概要を紹介しつつ、それらのビジネス遂行上に必要な法令の基礎知識・適用関係を、平成28年5月25日に成立した改正Fintech関連法も踏まえて解説…

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