「運用で資産を増やす」には、それなりのリスクが伴う
本稿の読者のなかにも「老後資金が足りないから投資で増やそうと考えている」という人、あるいは「金融機関から投資を勧められている」という人がいると思います。しかし、投資にはリスクが伴います。「投資で資金を増やそうと思ったら損をして、悲惨な老後になってしまった」と後悔するのでは悲しすぎます。
誤解のないよう申し上げておくと、筆者は決して投資を否定しているのではありません。老後資金に関しては、ガツガツ儲けようとする「アグレッシブな投資」ではなく、インフレで預金が目減りするリスクを軽減するための「守りの投資」を勧めていますが、その話は別の機会にしましょう。
老後資金を増やすために、投資の前にやるべきことは、
●働いて収入を増やすこと
●生活を見直して支出を減らすこと
この2つです。本稿では、後者の「投資で増やそうとする前に、生活を見直して支出を減らす」ことについて、くわしく見ていきたいと思います。
倹約する前に、生活を見直そう
節約のため「まずいけれど、安いほうのパンを食べよう」とガマンしている人もいますが、そんな悲しい食事をする前に「大きな支出項目を見直す」ことを考えてみましょう。ケチケチしすぎては心の潤いが減ってしまいます。生活を見直してもなお必要な場合だけにとどめておきましょう。
生活を見直すといっても、家計簿をつける必要はありません。預金通帳の大きな引き落とし項目とクレジットカードの明細表があれば、大きな支出項目は洗い出せるでしょう。それらを改めて見直し、「必要だと思って支払い続けているアレコレだが、やめたら本当に困るのだろうか?」と自問自答してみるのです。
なお、生活の見直しは、可能であれば夫婦の共同作業として行いましょう。夫が妻の家計簿を覗き込み、文句をいうようなまねをすると「私のやり方にケチをつけようとしている!」と、妻が腹を立て、かたくなになってしまいます。そうなると、作業が進まないだけでなく、長い老後の夫婦円満に悪影響を及ぼしかねませんから…。
見直しポイント1★まず最初に行うべきは「保険」のチェック
では、日常生活において見直すべきポイントを見ていきましょう。まず最初は「保険」です。日本人は保険が大好きで「なんとなく安心だから」というフンワリした理由で多額の保険料を払い続けている人もいます。
しかし保険は「客が払う保険料のほうが、客が受け取る保険金より多い」損な取引なのです。保険会社の費用等は顧客が負担しているわけですね。したがって、本当に必要な保険には加入するとしても、必要のない保険にまで加入すべきではありません。
本当に必要な保険とは「起きる確率は低いけれども、起きたら悲惨なことになる」という事態に備えるものを指します。
たとえば、専業主婦(または主夫)と乳飲み子を養っている一家の大黒柱は、自分に万が一のことがあったら家族が路頭に迷いかねませんから、生命保険が必要です。自動車を運転するときには、大事故を引き起こしてしまうリスクがありますから、自動車保険が必要です。
しかし、定年退職したお爺さんは生命保険の必要がありません。お爺さんが死んでも、お婆さんは(悲しむでしょうが)資金面で路頭に迷うことは無いからです。残っている退職金は相続しますし、遺族年金も貰えるかもしれません。保険料を支払う代わりに、その分を貯金しておいてあげた方がよいのではないでしょうか。
医療保険は必要でしょうか? 「大病を患って巨額の治療費が必要になるといけないから、医療保険に加入しよう」と考えている人は、すでに加入している健康保険の「高額療養費制度」について調べてみましょう。多くの場合「医療保険は必要なさそうだ」という結論に達すると思いますよ。
学資保険は必要でしょうか? 子どもの学費がかかることはわかっています。ならば、貯金しておけばよいのではないでしょうか。「自分に万が一のことがあったら、子どもが学校に通えない」と心配しているなら、掛け捨ての生命保険に加入すればよいでしょう。
見直しポイント2★クルマのトータルコストは非常に大きい
田舎で生活するなら自動車が必要かもしれませんが、都会で生活するなら不要かもしれません。自動車は、駐車場代や車検費用、ガソリン代等に加えて定期的に買い替えコストもかかりますので、トータルすると非常に大きな出費になります。
筆者は自動車を手放して公共交通機関で生活していますが、相当ぜいたくにタクシーを使っても、以前よりトータルコストは下がっています。加えて、駅まで歩く、駅のなかを歩く、といった運動ができているので、スポーツジムに通う費用まで浮きました(笑)。
見直しポイント3★その習い事、本当に役に立っている?
子どもに数多くの習い事をさせている親をときどき見かけますが、本当に子どものためになっているのでしょうか? なかには「自分はちゃんと子育てをしている」という自己満足のため、子どもに無用なストレスを与えている例もあるかもしれません。習い事の必要性について、一度じっくり検討してみてはどうでしょう。
また、自分自身が資格をとるための講習に参加しているなら、それが自分の現在の仕事や将来の転職等に本当に役立つ可能性があるか、それもよく考えてみましょう。「なんとなく資格があるほうがよさそうだから…」というだけなら、払っているコストに見合ったメリットが見込めないかもしれませんよ。
見直しポイント4★都心のマンションへ引っ越すという選択肢
郊外の広い家に住んでいる高齢のご夫婦は、都心の小さなマンションに引っ越すことも検討してみましょう。子どもが同居していたときは広い家が必要でしたが、子どもが独立したあとの広すぎる家は、掃除や戸締りが大変ですし、光熱費もかさみますから。
マンションは、隙間風が少ないうえに、上下左右の家が相互に暖め合うので、冬の夜中でもそれほど寒くありません。高齢者にとって危険な夜中のトイレも、一軒家よりは安心でしょう。
少子化で若い人が減っていくので、郊外の住宅の需要は減っていくでしょう。広い一戸建てを手放そうと考えている人も大勢いますから、長期的にみると郊外の一戸建ては値下がりしていくかもしれません。そうなったら「一戸建てを売却して老人ホームに移ろう」と考えたとき、資金計画が狂ってしまうかもしれませんね。
見直しポイント5★少額でも「自動引き落とし」は必ず見直しを
小さな支出でも、クレジットカード払いになっていたり、預金自動引き落としになっていたりするものについては、改めて細かく見直してみましょう。
熱心に読まなくなったビジネス雑誌の定期購読料、サボってばかりのスポーツジムの年会費などは、思い立ったときに解約しないと、すぐに次回の引き落とし期日が来てしまいますよ!
本稿は以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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