「複利の強さと恐ろしさを知れ!」
ソフトバンクも、時代とともに次々とエスカレーターを乗り換えてきました。「ムーアの法則※」に従い、IT業界という大きなドメインには居続けていますが、実はその中で最も成長しているセグメントをいち早く見つけてきたのです。
※ インテルの創業者の1人であるゴードン・ムーアが1960年代に唱えた「半導体の集積密度は、1年半から2年で倍増する」という経験則。現在に至るまでこの法則は破られることなく、ITの世界では技術革新が続いている。
ソフトウエアの販売に始まり、コンピュータ雑誌の出版、ADSL、モバイル通信、ロボット、IoTというように、「上りのエスカレーター」に乗り換え続けてきました。
1つの場所に留まらず、これほど軽やかに乗り換えを続けてきたのは、孫社長が複利のパワーのすごさを誰よりも深く理解していたからです。「複利の強さと恐ろしさを知れ!」
これが孫社長の口グセでした。年10%成長を目指すのと、年1%成長で甘んじるのとでは、複利の効果で見れば10年後や20年後には恐ろしいほどの差がつく。
それを痛感していたからこそ、孫社長は成長ドメインに居続けることにこだわるのです。
これは余談になりますが、日本という国の成長を考える時も、複利の効果を忘れるべきではありません。
日本の経済成長率は長らく低迷を続けていて、コロナ前の2018年度の実質成長率は0.6%でした(2019年度は、消費税率アップなどの影響でマイナス0.1%に)。
一方、同年度の中国の実質成長率は6.6%です。
その差は単年度で見れば6.0%ですが、この数字が複利で四半世紀続いたらどうなるか。仮に、現在の日本と中国のGDPをともに「100」とした場合、25年後の日本は「116」に対し、中国は「494」となり、伸び率で380%近くもの差がつきます。
この差こそ、日本を世界の中で相対的に貧しくしている原因なのです。
日本の1人あたりの名目GDPは、2020年時点で世界24位です。1980年代半ばから2002年まではずっと1桁台でしたが、そこから一気にランキングを落としました。
その背景にあるのは、日本人の「複利の力」に対する認識の甘さではないでしょうか。
農耕民族である日本人は、「毎年お米がどれくらい収穫できるか」という単利の考え方が基本であり、毎年コツコツと成果を積み上げていくという発想が根強いようです。
だから現在の企業も、単年度の業績を重視し、「前年度割れしなければいい」といった発想になりがちです。
しかし、現代の資本主義社会は、複利の理論で回っています。単年度でプラスになるだけでなく、毎年成長を続けて資本を大きくし、複利の効果でどんどん会社全体を膨張させていく。このように、何ごとも複利で発想するのがグローバルスタンダードなのです。
低成長を抜け出し、日本経済が再び活力を取り戻すためには、今こそ複利の発想を持たなくてはなりません。
三木 雄信
英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」主宰