目標達成には、年何%の成長が必要か?
「ところで、肝心の複利の計算方法を早く教えてよ」という声が聞こえてきそうですが、わざわざ難しい計算をする必要はまったくありません。簡単に計算してくれるサイトがあるので、これを使えばすぐ答えが出ます(高精度計算サイト「keisan」https://keisan.casio.jp/)。
「そこまで正確に計算しなくても、とりあえず自分の業界についておおまかな将来を予測したい」というのであれば、さらに便利で簡単な暗算方法があります。
それが「72の法則」です。
これを使えば、「現在の売上が2倍になるまで、何年かかるか」をすぐに暗算できます。
やり方は簡単。「72」を年平均成長率の数字で割ればいいのです。年8%で成長している会社なら、「72÷8(%)=9年」が「売上が2倍になるまでにかかる年数」となります。あくまで近似値ですが、正確に計算した場合の答えとほぼ同じ数字が出ます。
この暗算式を応用すれば、「目標を達成するには、年何%で成長しなくてはいけないか」も計算できます。例えば、「現在の売上が10億円で、5年後までに2倍の20億円に拡大したい」というなら、「72÷5年」で計算します。すると「年14%程度」ずつ成長しなくてはいけない、という答えがあっという間に出ます。
このように、「72の法則」で計算すると、自分の業界や会社の将来像がつかみやすくなります。前述したIoT分野のように、年15%成長を続けている業界なら、わずか5年足らずで市場規模が2倍になります。
問題は、マイナス成長の場合です。ここで冒頭の相談に戻って、私が「なぜ20代の若者に、業界の平均成長率がマイナス2%だったら、迷わず別の業界への転職を勧めるか」を説明しましょう。「72の法則」を使えば、その理由はすぐわかります。
この場合はマイナス成長なので、「72÷2」を計算すれば、「売上が2分の1になるまでにかかる年数」がわかります。もちろん、答えは「36」。つまり、「36年後には、業界規模は2分の1になってしまっている」ということです。
例えば平均成長率がマイナス2%の業界があったとします。
2021年のこの業界全体の総売上高が約1兆円だったとすると、2057年には業界規模が5,000億円まで半減すると、ざっくりとではありますが予測できます。
ちょっと衝撃的な事実ではないでしょうか。業界規模が半減する中で、会社が生き残るのは並大抵の苦労ではありません。現在20代の人が定年を迎える頃まで存続できる会社は、ごく限られると見ていいでしょう。私が若い人に転職を勧めるのは、これが理由です。
とはいえ、中堅社員になれば、転職はそう簡単ではないでしょう。
その業界で培った経験やスキルを捨てたくないという思いもあるでしょうし、家庭や個人の事情で会社を移るのが難しいという人もいるはずです。
では、マイナス成長の業界にいたら、このまま全員が沈んでいくしかないのかと言えば、そんなことはありません。業界全体としては下り坂でも、細かいセグメントに分けた時に、部分的に成長している領域はないでしょうか。
例えば、近年縮小が続いている新聞業界でも、電子版に限れば市場規模は拡大しています。だったら、その領域に特化して売上を拡大する戦略をとれば、1つの生き残り策になるかもしれません。
あるいは、「IoT情報に特化したニュース配信サービス」といった、「成長セグメント×成長産業」を組み合わせた新しいサービスを開発するなどのアプローチも考えられます。
いずれにしても大事なのは、複利のマイナスパワーから抜け出すことです。
一刻も早く下りのエスカレーターを降りて、上りのエスカレーターに乗り換えること。「会社の将来が不安だ」という相談に対する答えは、これに尽きます。