「消費税は預り金ではない!」インボイス絡みで声高主張されるも…やはり「消費税は預り金である」【税理士が解説】

「消費税は預り金ではない!」インボイス絡みで声高主張されるも…やはり「消費税は預り金である」【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

インボイス制度に関連して「消費税は預り金ではない」という主張をよく聞くようになりました。この見解は果たして本当に正しいのかどうか、根拠とされる「益税に関する判例」を改めて見ていきましょう。板山翔税理士がわかりやすく解説します。

 

――「消費税は預り金ではない」と言う人がいますが、消費税って事業者が消費者から預かって国に納付しているものですよね?

 

板山翔税理士:「はい、そのとおりです。消費税は実質的には預り金です。ただし、法律的には納税義務者は消費者ではなく事業者なので、そこだけを見れば『消費税は預り金ではない』という見方はできます。」

「消費税は預り金ではない!」と主張する人々の“根拠”

 

Yahoo!ニュースやYouTubeなどでインボイスに関する情報発信をするときに、「消費税をいくら預かったか伝えるための書類がインボイスです」なんて説明をすると、「消費税は預り金ではないよ!」と、すかさずコメントなどで指摘してくる人が一定数います。

 

「税理士試験で消費税法の条文丸暗記させられた私によくそんなことが言えるね?笑」

 

と最初は気にしていなかったんですけど、この指摘をしてくる人が結構多いので、どこからそんな話が出てきたのか調べてみることにしました。

 

すると、東京地裁で平成2年3月26日に出た判決を根拠に、「消費税は預り金ではないことが判例で確定した」と言っている人が多いことがわかりました。

 

そこでその判例をTAINSという判例が検索できるシステムで検索してみたのですが、判決の内容を見ても「消費税は預り金ではない」なんて言葉は一言も出てきません。

 

しかし、たしかにそういう読み取り方をできる部分もありましたので、その部分が切り取られて、「消費税は預り金ではない」という考え方が広まったようです。

 

この判例自体、いわゆる益税問題について争われた事件で、今インボイス絡みで注目度が高くなっています。

 

そこで今日は、その判例の内容を簡単に紹介した上で、消費税は預り金なのか否か、改めて考えてみたいと思います。

根拠とされる「東京地裁判決平成2年3月26日判決」の中身

消費税が導入された平成元年、当時のサラリーマン新党の代表をはじめとする原告団が、消費税法は憲法違反であるとして、国を相手に損害賠償を請求しました。

 

原告側の主張を要約すると次のとおりです。

 

<①原告側の主張>

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●消費税法では事業者を納税義務者としているが、実質的に納税義務者は消費者であり、事業者は徴収義務者(消費税を預かって納めているだけ)に過ぎない。

 

●したがって事業者が消費税を徴収しながら、免税や簡易課税などの制度によってこれを国に納めなくてよいのは、憲法29条(財産権を侵してはならない)などに違反している。

 

※説明の都合上かなり省略している点、ご了承ください。

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消費税を納税しているのは私たち消費者なのだから、これが全額国に納められないのはおかしいでしょ?という話です。

 

消費税を払っている消費者の立場からしたら、これはもっともな意見ですよね。

 

このように、消費者が支払った消費税が全額国に納められずに、一部事業者の手元に残ってしまうのが、いわゆる益税問題です。

 

手元に残るかどうかは、事業者の値付けの仕方や仕入の状況にもよります。

 

例えば免税事業者が消費税分を上乗せして請求しなければ、消費税分が手元に残るなんてことにはなりません。上乗せして請求していたとしても、元々の売値が安すぎたら、売上で受け取った消費税より、仕入や経費で支払った消費税の方が多い場合もあります。

 

ただし、仕組み上手元に残る可能性が高いのはたしかです。

 

これに対する国側の反論を要約すると次のとおりです。

 

<②国側の反論>

-------------------------------

●消費税法5条1項は「事業者は、国内において行なつた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。」と規定しているのであつて、事業者が納税義務者であることは明らかである。

 

●中小企業の事務負担への配慮という制度趣旨から、免税や簡易課税などの制度も決して不合理ではない。

 

※説明の都合上かなり省略している点、ご了承ください。

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法律上の納税義務者はあくまで消費者ではなく事業者であり、実際に納税事務をしないといけないのも事業者なので、事業者の事務負担などを配慮して、免税や簡易課税などの制度を作ったことに特に問題はない。という内容です。

 

こちらも消費税を納税しないといけない事業者の立場を考えたら、もっともな意見ですよね。

 

まあ最終的にインボイス制度のような事務負担への配慮どころか、事務負担の塊のような制度を始めてしまい、免税事業者は今大混乱しているわけですけど…あくまでこの時点では事務負担に配慮してくれていました。

 

これに対して、裁判所はどのような判決を下したのか、要約すると次のとおりです。

 

<③裁判所の判決>

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●消費者は、消費税の実質的負担者ではあるが、消費税の納税義務者であるとは到底いえない。(納税義務者は事業者である)

 

●したがつて、消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者に対する関係で負うものではない。

 

●もつとも、消費税の実質的負担者が消費者であることは争いのないところであるから、そのような義務がないとしても、消費税分として得た金員は、原則として国庫にすべて納付されることが望ましいことは否定できない。

 

●免税や簡易課税などの制度は、消費者に対する実質的なピンハネ(いわゆる益税)を許す余地がある制度であることは否定できないが、納税事務の複雑化を避ける目的で設けられたことなどを鑑みれば、不合理とまでは言えず、消費税法それ自体が財産権を侵害するものとはいえない。

 

※説明の都合上かなり省略している点、ご了承ください。

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納税義務者は消費者か? 事業者か?という問いに対しては、納税義務者は事業者であるという結論を下しました。

 

納税義務者は事業者なのだから、消費者が支払った消費税分は、納税する消費税を預けているというより、あくまで商品・サービスの対価の一部にすぎません。

 

事業者はその対価の一部を使って消費税を納税しているだけで、消費者から消費税を預かっているわけではないため、それを全額納付する義務はないというということです。

 

たしかに、この部分だけ切り取って見れば、消費税は預り金ではないという見方はできそうですね。

 

とはいえ、直後に消費税の実質的負担者は消費者であり、消費者が消費税分として支払ったお金は、原則として国に納付されることが望ましいとも言っているので、実質的には預り金であることに変わりはないでしょう。

 

消費者一人一人に納税させるわけにもいかないので、事業者を納税義務者とした結果、消費者が負担した消費税が全額国に納付されないというズレが生じてしまったにすぎません。

 

また、免税や簡易課税などの制度については、たとえ益税が発生してしまう可能性があったとしても、納税事務の負担を減らす目的で作られたことを考えれば不合理までとは言えず、財産権の侵害にはあたらないという判断を下しました。

やはり「消費税は預り金」という見方が自然

以上のとおり、法律的に納税義務者は消費者ではなく事業者であるという部分を重視すれば、たしかに消費税は預り金ではない、という見方をすることもできます。

 

しかし、そもそも消費税は、商品・サービスを消費した最終消費者が負担するものであり、これを消費者が支払って、事業者が納税しているという全体の仕組みを考えれば、やはり消費税は預り金であるという見方をするのが自然でしょう。

 

判例でも消費税は預り金ではないなんて一言も言っていませんし、消費税の実質的負担者は消費者であると言っていることから、むしろ実質的には預り金であると言っているようにも見受けられます。

 

そもそも消費税は預り金ではないなんて言い出したら、「じゃあ私たちが払っている消費税って何なの?」っていう根底から消費税の仕組みを説明し直さないといけなくなってしまいます。

 

納税義務者と実質的負担者が違うなんておかしい、矛盾している、と思われた方も多いと思いますが、税法なんてもともと矛盾だらけです。今に始まった話ではありません。笑

まとめ

こうやってある程度きちんと判例を見てもらったら、「消費税は預り金ではない!」とか、「益税はいけないことだ!」とか、一言で片付けられるような、そんな単純な話ではないことがご理解いただけたと思います。

 

人から聞きかじった情報を鵜のみにするのではなく、こうやって判例のようななるべく正しい情報源をあたってみて、できるだけ正しい意思決定を下せるような癖をつけていきましょう。

 

 

板山 翔

板山翔税理士事務所 代表、税理士

 

おそらく日本初の「オンライン専門の税理士事務所」の創設者。自社の事業を「税理士業」ではなく、「経営に必要な情報をオンラインで提供する事業」と捉え、経営戦略コンサルタントとしても活動している。従業員5名以下の小さな会社の経営者を中心に、「小さな会社だからこそできる差別化戦略」の立て方や、「短期間で売上アップするためのマーケティング戦略」、「長期的に資産を形成していくための財務戦略」などを教えている。

 

 

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