「100万円の生前贈与だから非課税のはず」→税務署「名義預金扱いです」…追徴課税となったワケ【税理士が解説】

「100万円の生前贈与だから非課税のはず」→税務署「名義預金扱いです」…追徴課税となったワケ【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

税務署は相続発生後だけでなく、生前の贈与についても目を光らせています。生前贈与を行った際には、しっかりとその証拠を残しておかないと、あとあと憂き目に遇うことも……。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、生前贈与の正しい証拠の残し方について、同氏が解説します。

贈与の履行がなかったとして「名義預金」扱いに

書面によらない贈与は認められたが、贈与の履行がなかったとして名義預金とされた事例

*平成23年8月6日裁決

 

おおよその前提は下記です。

 

・亡くなる直前まで十分な意思能力あり、相続開始は平成19年5月〇日
・複数相続人名義の各定期預金は被相続人からの死因贈与により、それぞれ取得されたものと認められるから、相続課税財産に該当するとして、更正
・本件各定期預金は平成10年8月24日、平成15年12月25日、平成16年1月6日に一斉に預け入れ。なお、元利金自動継続であり、相続開始日において解約されていません。
・信用金庫は本件各定期預金の満期のお知らせ等を、請求人の各住所地へ送付していました。
・銀行印は被相続人名義の預金の届出印鑑としても使用されていました。なお、当該印鑑は被相続人の自宅保管でした。

(国税不服審判所判断一部抜粋)

 

・請求人と被相続人との間での贈与契約の成立について

被相続人が請求人に対し、平成10年8月1日に1人当たり100万円を、平成15年8月13日に、平成15年と平成16年にそれぞれ1人当たり110万円を贈与する旨を話し、実際に、平成10年8月24日に平成10年各定期預金が、平成15年12月25日に平成15年各定期預金が、平成16年1月6日に平成16年各定期預金がそれぞれ預け入れられていることは、被相続人において当該贈与の意思を有していたことを裏付ける事実であると認められ、請求人は拒むことなく礼を言っているものと認められることからすれば、被相続人が本件各定期預金についての贈与の意思表示をし、これに対し、請求人らが受諾の意思表示をしたものと認められる。

 

また、当該贈与の意思表示の書面は作成されていないことからすると、被相続人と請求人との間で、いずれも本件各定期預金に関する書面によらない贈与契約が成立したものと認められる。

 

・贈与契約の履行の有無

書面によらない贈与は、民法第550条の規定によりその履行が終わるまでは当事者がいつでもこれを取り消すことができることから、その履行前は目的財産の確定的な移転があったということはできないので、この場合の贈与の有無、すなわち、目的財産の確定的な移転による贈与の履行の有無は、贈与されたとする財産の管理・運用の状況等の具体的な事実に基づいて、総合的に判断すべきであると解されるところ、本件各定期預金の届出印及び証書の管理状況に基づいて、本件各定期預金に係る贈与の履行の時期について検討した結果は、以下のとおりである。

 

<本件各定期預金の届出印の管理状況>

本件各定期預金の届出印は、本件〇印及び本件各■印であり、本件相続が開始するまで、いずれも被相続人の自宅の寝室の枕元に置かれた時計の引き出しの中に保管されていたと認められるところ、被相続人の生前中、請求人K、請求人L及び請求人Mのいずれもが、本件〇印の保管場所を知らず、また、請求人Jは、平成20年2月か3月頃に請求人Nから本件各■印を受け取るまでは、本件各■印を一度も見たことがなかったこと、更に、請求人らは、被相続人の生前中、本件各定期預金の届出印を、請求人らの固有の印鑑へ改印をするための手続を行っていないことからすれば、請求人K、請求人L、請求人M及び請求人Jは、いずれも本件各定期預金の届出印の管理には、全くかかわっていなかったと認められる。

 

一方、請求人G及び請求人Nについては、被相続人と生前同居しており、請求人Gにあっては、被相続人の指示を受けて本件各定期預金の届出印を押印していることが認められることからすると、被相続人が、本件〇印及び本件各■印を、被相続人の自宅の寝室の枕元に置かれた時計の引き出しの中に本件相続が開始するまで保管していたことを了知していたものと認められるところ、被相続人が本件〇印を本件被相続人の名義の預金の届出印鑑としても使用していたことに加え、本件被相続人の生前中、請求人らは、本件各定期預金の届出印を、請求人らの固有の印鑑へ改印をするための手続を行っていないことからすれば、請求人G及び請求人Nにおいても、本件各定期預金の届出印の管理には、かかわっていなかったと認められる。

 

その他、本件被相続人は、亡くなる直前まで十分な意思能力を有していたことを加味すると、本件各定期預金の届出印は、本件相続が開始するまでの間、被相続人が管理していたものと認められる。

 

被相続人は、亡くなる直前まで十分な意思能力を有していたこと、本件各定期預金の預入れに伴って作成された本件各定期預金の証書は、いずれも作成された都度、請求人G又は請求人Nが被相続人の自宅においてQ信用金庫g支店の職員から受領し、その後すぐに被相続人に手渡され、それから1週間程度、被相続人が所有する手提げ金庫に保管されたものの、当該手提げ金庫の中では盗難のおそれがあることから、被相続人から請求人Gに手渡され、請求人Gの耐火金庫に保管されていたこと、請求人M及び請求人Jの各名義の定期預金の証書は、本件相続の開始後の平成20年の正月に請求人M及び請求人Jにそれぞれ交付されたこと、請求人らは、被相続人の生前中、本件各定期預金について、請求人らの固有の印鑑への改印及び証書の再発行手続を行っていないことからすれば、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の証書を除く本件各定期預金の証書は、被相続人の生前中、被相続人の手提げ金庫の中から、請求人Gの耐火金庫の中に移され、そのまま保管されていたが、それは盗難のおそれを回避するため請求人Gの耐火金庫を借りただけであって、実質的には被相続人が管理していたものと認めるのが相当である

 

もっとも、本件各定期預金のうち、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の証書は、遅くとも平成16年2月までには請求人K及び請求人Lにそれぞれ交付されていることからすれば、本件相続の開始時点において、これらの定期預金の証書を本件被相続人が管理していたものと認めることはできない。

 

以上によれば、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の証書を除く本件各定期預金の証書は、本件被相続人の生前中、実質的には本件被相続人が管理していたものと認められるが、請求人K及び請求人Lの各名義の定期預金の証書については、本件相続の開始時点において、本件被相続人が管理していたものとは認められない。

 

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次ページまとめ:事実認定によっては書面によらない贈与が認められるケースも
税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 3相続編

税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 3相続編

伊藤 俊一

ぎょうせい

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