「100万円の生前贈与だから非課税のはず」→税務署「名義預金扱いです」…追徴課税となったワケ【税理士が解説】

「100万円の生前贈与だから非課税のはず」→税務署「名義預金扱いです」…追徴課税となったワケ【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

税務署は相続発生後だけでなく、生前の贈与についても目を光らせています。生前贈与を行った際には、しっかりとその証拠を残しておかないと、あとあと憂き目に遇うことも……。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、生前贈与の正しい証拠の残し方について、同氏が解説します。

贈与の「民法上」と「租税法上」の違いについて

Q

民法上の贈与と租税法上の贈与について基本的な理解を教えてください。

 

贈与について民法と租税法とで最も乖離が生じるのがみなし贈与(相法7、9)です。後述のように名義財産は相続税法(相続税、贈与税)において条文にないことから、条文を基に当局から指摘がなされることはありません。つまり、事実認定に着地するという意味です。

「民法上」の贈与は当事者の合意で成立する“契約”

みなし贈与や名義財産などの租税法上の贈与の問題はすべて民法上の贈与(無償譲渡)の問題に収斂されます。したがって、民法上の贈与については、概略だけでも知っておく必要はあります。

 

贈与「税」は、贈与(死因贈与を除く)により財産を取得した場合、その「取得」という事実を課税原因としています。そして、この贈与とは、民法上の贈与契約をいい、その内容は民法に規定されているものです。

 

民法上の贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与えるという意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する契約と定義されるのが一般的です。

 

贈与は、

 

・書面によるもの
・書面によらないもの

 

とがあります。これによる違いは、

 

・書面による贈与
撤回することができない

・書面によらない贈与
既に履行した部分を除き、いつでも撤回することが可能(民法550)

 

という点です。贈与の特殊形態としては、

 

・定期贈与

例えば、毎月一定額を贈与することなど、定期給付を目的とする贈与

 

・負担付贈与

例えば、評価額5億円の土地を贈与する代わりに借入金5億円を負担させる場合など、贈与を受けた者に一定の給付をなすべき義務を負わせる贈与

 

・死因贈与

贈与者の死亡により効力を生ずる贈与(民法552~554、相基通1の31の4共-8)

 

があります。

 

「死因贈与」は契約の成立が前提だが、「遺贈」は一方的なもの

質疑応答事例7282 Ⅱ 相続に係る民法の規定と相法における特別の規定
東京国税局課税第一部 資産課税課 資産評価官(平成20年8月作成)「資産税審理研修資料」
TAINSコード 相続事例707282

 

ハ 死因贈与

死因贈与とは、被相続人との間に成立した贈与契約について、被相続人の死亡をもって効力が生じることとされたものである。

 

民法第554条は、「その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」としているところ、相続開始の時において対象財産が遺産であることや、相続の開始をもって取得の効力が生じることは遺贈と同様であり、この点、相法においても、遺贈に含むものとしているところである(相法1の3一)。

 

ただし、遺贈が被相続人による一方行為であるのに対し、死因贈与は、贈与契約という諾成契約であることから、遺言による必要はなく(贈与契約は、口頭でも成立するため、当該契約の存在に係る認定が必要となる。)、遺贈の承認・放棄に係る規定(民法986条ないし989条など)、その性質に反するものであり準用されず、また、受贈者における意思表示も、事実認定の基礎となるなど、遺贈と異なる点がある。

 

なお下記の裁決事例でも、同様の見解です。

 

(重加算税/仮装・隠ぺい)

本件遺贈確認書は、審査請求人と共同相続人との間の争いを解決するために作成されたものであって、租税回避のため仮装されたものとまでは認め難いから、審査請求人の虚偽の答弁のみをもって隠ぺい又は仮装したとまで認めることは困難であるとして重加算税の賦課決定処分が取り消された事例
(平15-03-24裁決)TAINSコードF0-3-070

(一部抜粋)

 

■関係法令等

相続税法第1条及び同法第1条の2の各規定は、上記1の(3)のイのとおりであるところ、この遺贈、死因贈与及び贈与の意義については、相続税法において何ら規定がないことから民法上の解釈による。(※下線筆者)

 

(イ)

遺贈とは遺言という単独行為によってなされる財産の無償譲与をいい、一方、死因贈与とは、当事者の一方が自己の財産を自己の死亡を条件として無償で相手方(受贈者)に与える意思表示をし、相手方がこれを受諾するという不確定期限付の契約をいうものとされている。

 

そして、遺贈の場合の遺言とは、民法に規定された形式により成立し、死因贈与に係る契約は、書面によるものに限らず口頭によるものも有効に成立すると解され、また、遺贈又は死因贈与による財産の取得時期は、原則として相続開始の時と解するのが相当である。

 

(ロ)

贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思表示をし、相手方がこれを受諾するということにより効力を発生する契約をいうものとされており、その契約は書面によるものに限らず口頭によるものも有効に成立すると解され、また、贈与による財産の取得時期については、書面による贈与についてはその契約の効力が発生したときに、書面によらない贈与についてはその履行のとき贈与があったとみるのが相当である。

 

贈与契約の特徴とその効力

贈与契約の特徴です。

 

対価を伴わない無償契約であること
・対価的関係に立つ債務を負担しあう関係にはなく、一方のみに債務の発生する「片務契約」であること
当事者の合意だけで成立する「諾成契約」であること

 

続けて贈与の効力です。

 

・財産移転義務があること
・担保責任があること(民551)
・負担付贈与も有効であること

 

①贈与者は負担の限度において売買における売主と同等の担保責任を負うことになります(民法551②)。

 

②負担付贈与は、双務契約の適用があり(民法553)、同時履行の抗弁権(民法533)や危険負担(民法534~536)、負担の不履行における解除(民540)が適用されることになります。

 

付随論点として民法1030条と1039条の違いがあります。どちらも遺留分減殺請求に関する条項ですが、

 

1030条→無償の贈与に関する規定
1039条→不相当な対価での有償行為に関する規定

 

とまとめることができます。そうなると、

 

1030条→無償の贈与に関する規定
贈与はそもそも無償なので単純に無償行為と読み替えが可能なのか?

1039条→不相当な対価での有償行為に関する規定
不相当な対価を受け取っているということはそもそも有償なので低額譲渡(税務上はみなし贈与が認識される)による贈与部分(上記と同様、その部分の無償行為)と読み替え可能なのか?

 

すなわち、「両者とも無償部分に対する減殺分を取り返すことができると平たく読み変えることは可能か?」という疑問が湧きます。しかし、これより、1030条の規定の適用を回避するために有償行為を装った場合の規定が1039条である、という整理のほうが正確です。

 

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伊藤 俊一

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