マイホーム、“夫婦共有名義”で買おうかな…「住宅ローン控除を二重に受けられる」はよく聞く営業トークだが、不動産会社があんまり言わない「デメリット」【司法書士が解説】

マイホーム、“夫婦共有名義”で買おうかな…「住宅ローン控除を二重に受けられる」はよく聞く営業トークだが、不動産会社があんまり言わない「デメリット」【司法書士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

司法書士・佐伯知哉氏(司法書士法人さえき事務所所長)が、夫婦共有名義でマイホームを購入する際のメリット・デメリットについて解説します。

注意!「夫婦共有名義でマイホーム購入」にはデメリットもある

 

夫婦でお金を出し合ってマイホームを購入するケースは多いでしょう。夫婦共有名義での購入について、不動産会社からはメリットをたくさん聞くと思いますが、実際はメリットばかりではありません。デメリットも存在します。

 

私たち司法書士は不動産取引によく関わる分、マイホームを夫婦共有名義にする場合のメリット・デメリットについて質問を受ける機会も多いです。

 

そこで今回は、マイホームを夫婦共有名義で購入する場合のメリットとデメリットについて紹介します。

夫婦の共有名義でマイホーム購入するメリット

さっそくメリットから見ていきましょう。

 

【メリット①購入できる不動産の金額が高くなる】

1つ目は、購入できる不動産の金額が高くなるということです。単純に考えて、夫もしくは妻が単独より夫婦2人のほうが資産や年収が増え、住宅ローンを多く借り入れられます。一馬力より二馬力のほうが購入できる不動産の金額は高くなりますよね。

 

【メリット②住宅ローン控除を二重に受けられる】※ペアローン・連帯債務の場合

2つ目は、住宅ローン控除を二重に受けられるということです。これは不動産会社の営業トークでもよく聞くメリットでしょう。

 

住宅ローン控除を二重で受けるには、まず夫婦で住宅ローンを組むことが前提となりますが、組むのはペアローンや連帯債務でなくてはいけません。連帯保証では適用されないのでご注意ください。

 

ペアローンでは夫と妻でそれぞれ契約を結ぶので、契約が2本ある状態になります。連帯債務は、契約自体は1本ですが、債務者(お金を借りる人)として夫・妻2人の名前を連ねて借り入れる形です。一方の連帯保証は、たとえば夫を債務者とする場合、妻はその保証人という立場で契約する形になります。連帯債務と連帯保証は名前は似ているものの、法律上の立て付けが異なります。連帯債務であれば住宅ローン控除を二重に受けられますが、連帯保証では受けられませんのでご注意ください。

 

具体的にどれくらいの控除が受けられるのでしょうか。金額としては、「年末の借入金残高の0.7%相当」が所得税や住民税から控除されます。

 

控除期間は、新築住宅や買取再販の中古住宅(業者が購入・リフォームして売っているケース)であれば13年、中古住宅(一般個人の住宅を、不動産会社などを仲介して購入するケース)であれば10年です。

 

具体的にどれくらいのお得になるのか、控除額を簡単にシミュレーションしました【図表】。

 

出所:YouTube-司法書士/佐伯ともや『マイホームを夫婦共有名義で購入するメリットとデメリット』(https://www.youtube.com/watch?v=DuNdWPFCu68)
【図表】住宅ローン控除額の比較(シミュレーション) 出所:YouTube-司法書士/佐伯ともや『マイホームを夫婦共有名義で購入するメリットとデメリット』(https://www.youtube.com/watch?v=DuNdWPFCu68)

 

借入額は3,000万円で、夫単独で3,000万円借りた場合と、夫婦共有で夫2,400万円・妻600万円という内訳で借り入れた場合の2パターンを記載しました。金利期間は両方とも同じ条件です。

 

シミュレーションの結果、10年間の合計控除額は、夫単独の場合は約253.9万円、夫婦共有の場合は夫が約210.4万円、妻が約52.6万円となり、夫単独で借りるより約9.1万円の節税になります。1年あたりでは9,100円程度お得ということですね。

 

金額や金利、夫や妻の所得などが変動すると諸条件も変わってきますが、だいたいの節税額として捉えていただければと思います。

 

【メリット③売却時の「3,000万円の特別控除」が2人分適用される】

3つ目は、マイホームを売ったときの特例である「3,000万円の特別控除」が2人分適用されるということです。これは結構大きいですよね。

 

マイホーム(居住用財産)を売却したときは、所有期間の長さに関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できるという特例があります。

 

譲渡所得においては、購入時の金額より売却時の金額が大きいと、売却時に儲かった分に対して税金が課されます。その税率は所有していた期間によって変わるのですが(=長期譲渡/短期譲渡)、説明がややこしいので割愛します。

 

要は売ったときに儲かってしまうとその分に税金がかかるという話なのですが、売却するのがマイホームであれば、売却金額が3,000万円以内なら儲けていようが損していようが売却時に税金はかからない、という特例があるのです。

 

この特例は夫もしくは妻が単独で購入する場合でも適用できますが、夫婦の名義にすればそれぞれ3,000万円の控除を受けられることになります。単独だと、税金がかからないのは売却金額「3,000万円以内」ですが、夫婦共有であれば2人分の控除が適用されます。控除金額が大きくなるので売却時にかなり有利です。

 

【メリット④相続税を抑えることができる】

4つ目は相続税を抑えられるということです。相続税は亡くなった方の財産に対して課される税金ですので、その人が亡くなる前に財産を減らしておけば税額を抑えられます。たとえば1億円の不動産を所有する場合、1人で所有すればその人に1億円分の財産がある形になりますが、2人で所有すれば財産を5,000万円ずつに分散でき、1人当たりの遺産額を抑えることができます。そうすれば当然、相続税の額も抑えられます。

夫婦の共有名義でマイホーム購入するデメリット

次にデメリットについて見ていきましょう。

 

【デメリット①自由に売却できなくなる】

1つ目は、自由に売却できないことです。共有物は所有者全員がOKを出さなければ売却できません。もちろん、自分の持分だけを売るという方法も場合によっては可能ですが、このような売却方法では基本的に買手がつきません。ですので夫婦共有で不動産を買った場合、売却しようとしても夫婦それぞれに売る意思がないと売却できないということになります。

 

夫婦が揉めたり、あるいは夫婦の一方が病気や事故で判断能力が低下してしまい、成年後見制度を使わないといけない事態になったりするケースもあるでしょう。単独で所有していれば自分の意志で自由に売却できますが、夫婦共有名義だと売却に制限が生じるということは注意が必要です。

 

【デメリット②相続によって共有者が増える可能性がある】

2つ目は、相続によって共有者が増える可能性があるということです。夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者と子供がいれば彼らが相続人となります。しかし、子供がいない夫婦の場合はちょっと問題が生じます。

 

子のいない夫婦でどちらか一方がなくなった場合、相続権は、残された配偶者と被相続人(亡くなった人)の親、被相続人の親が亡くなっていれば被相続人のきょうだいへと分散します。「配偶者+被相続人の両親」あるいは「配偶者+被相続人のきょうだい」という組み合わせで遺産分割協議をすることになり、かなりややこしくなってしまいます。

 

このあたりは遺言によってリスクヘッジすることも可能ですが、何も対策していないと共有者が一気に増える可能性がありますのでご注意ください。

 

【デメリット③離婚時の財産分与が複雑になる】

3つ目は、離婚時の財産分与が複雑になるということです。これが最大のデメリットです。「これから夫婦でマイホームを買おうというのに、離婚を考慮するなんて」と思うかもしれませんが、離婚の可能性は0%ではないと思います。世の中を見ても結構な確率で離婚していますから、マイホームを買う際も離婚時のリスクを考えておく必要があるでしょう。

 

住宅ローンがあると離婚時の財産分与は特にややこしくなります。たとえばペアローンの場合、銀行から夫婦それぞれが債務者となった抵当権がつけられます。離婚時に夫が妻への財産分与として自分の持分をすべて妻に渡し、マイホームを妻単独の名義にした場合でも、夫が債務者となっている抵当権は残ってしまうのです。

 

夫婦としては「抵当権を100%妻にするわけだから、債務者も妻1人にすればいいんじゃないか」と思うかもしれませんが、銀行としてはなるべく広く回収できるほうが有利です。従来通り「妻はこれだけ、夫はこれだけ返済してください」とできたほうが回収できないリスクを減らせるので、銀行側は簡単には債務者の変更に応じてくれません。

 

特に住宅ローンが残っている場合は財産分与の内容がかなり複雑になるので、共有名義でのマイホーム購入を検討する際は、離婚時に共有名義の不動産をどのように処理するのかも考えなくてはいけません。

夫婦共有名義でマイホーム購入をする際のポイント

以上、今回はマイホームを夫婦共有名義で購入するメリットとデメリットについて紹介しました。

 

最後に、これから「夫婦共有名義でマイホームを買おうかな」と考えている方は、メリットだけではなくデメリットもしっかり伝えてくれる不動産会社に依頼しましょう。これが一番大事なポイントです。

 

不動産会社は不動産を売却・仲介したいわけですから、売れるようなセールストークを展開します。しかし、記事前半で紹介したようなメリットばかりを話すのではなく、後半で紹介したようなデメリットも一緒に教えてくれるような不動産会社のほうが信頼できると思います。

 

夫婦共有名義でマイホーム購入をする際の参考になれば幸いです。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

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