怠れば大金を失う羽目に…「亡き親の不動産を相続するも、名義変更を放置」←これ、2024年4月から“罰金”の対象です【司法書士が解説】

怠れば大金を失う羽目に…「亡き親の不動産を相続するも、名義変更を放置」←これ、2024年4月から“罰金”の対象です【司法書士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「親が亡くなったので不動産を相続したが、登記の名義を変えずに放置している」という方は少なくないでしょう。しかし相続登記は2024年4月1日から「義務」となり、怠れば“罰金”が課されるようになります。ペナルティを受けるリスクは本当にあるのか、期限内に相続登記が終わりそうにない場合、“罰金”を免れるにはどうすればよいのか。司法書士・佐伯知哉氏(司法書士法人さえき事務所所長)が解説します。

2024年4月1日から「相続登記を怠れば“罰金”」

 

相続登記とは、被相続人(亡くなった人)が所有していた不動産の登記名義を変更する手続きのことです。

 

元より「いずれは行わなくてはならない手続き」ではあるものの、手続きの期限や放置した場合のペナルティはありませんでした。しかし2024年4月1日より相続登記が義務化され、怠った場合には「罰金」が課されるようになります。

 

イメージがつきやすいように「罰金」という言葉を用いましたが、正確には「過料」と言います。罰金は刑事罰の一つであり、過料は秩序罰の一つです。過料が課されても前科はつきません。

 

現行法においても「怠れば過料がかかる登記」はいくつかあるので、まずはそちらから見ていきましょう。

現行法上の「怠れば過料がかかる登記」の例

まずは不動産登記の一種、表題部の登記です。たとえば建物を新築したり増築したりした場合は、その変更が生じてから1ヵ月以内に申請することが義務付けられており、放置すると10万円以下の過料が課されます。

 

次に商業登記(会社の登記)です。商業登記は、登記簿の内容に変更が生じてから2週間以内に登記する必要があり、放置すると100万円以下の過料が課されます。ちなみに商業登記の過料は会社ではなく代表個人に課されるものなので、経費では落とせないという点にもご注意ください。

 

実のところ、不動産の表題登記のほうは形骸化しているというのが現状です。放置したために本当に10万円以下の過料が課されたという事例は耳にしたことがなく、いろいろな人に尋ねてみても心当たりはないようでした。

 

一方、商業登記を放置して過料を課されたケースは割と耳にします。さすがに100万円という規模は聞いたことがないものの、頻度的にはそう珍しくありません。特に多いのは役員変更です。株式会社には代表取締役の任期があるものの(原則2年間)、任期の満了後に更新の手続きをしていなかった、あるいはしばらく放置していたなどで、だいたい5万円ほどの過料が生じています。

 

また、昔は1年くらい放置していても特に何も起こらないケースが多かったのですが、最近は「半年くらい放置していたら過料が発生する」という話もよく聞くようになりました。これは会社の規模などによっても変わってくると思いますが、基本的に、1人でやっているような小さな会社よりは、取締役会があったり資本金が大きかったりなど、規模の大きい会社のほうが過料を課される可能性は高いという感覚があります。

相続登記は「過料10万円以下」だが…本当に課されるのか?

前項のとおり、現行法上、不動産登記に関しては形骸化している一方で、商業登記のように手続きを放置したことで実際に過料が課せられるケースもあるわけです。

 

記事冒頭で挙げた相続登記も不動産に関わる登記です。2024年4月1日以降は、「不動産を相続したことを知った日から3年以内」に登記することが義務付けられます。注意したいのは、2024年4月1日以前に相続が発生した不動産も義務化の対象だということです。2024年4月1日以前の相続不動産の場合は、2024年4月1日から3年以内(つまり2027年4月1日まで)に登記しなければいけません。放置すると10万円以下の過料が課されます。

 

相続登記も、現状形骸化している表題登記と同じように結局過料は課されないのでは?と考える方もいるでしょう。しかし相続登記のほうは新制度であることや、そもそも所有者不明の土地をなくそうという明確な目的が背景にあること、空き家対策などにも関わってくる制度でもあることなどから、対応しなければしっかりと過料を取られるのではないかと見ています。

相続登記の過料を防ぐには?

一番の対策は「3年以内に相続登記をすること」であり、これをしておけばそもそも過料を課されることもありません。とはいえ、相続人の数が膨大で調べきれないために相続登記が頓挫したり、自力で片を付けようとすると誰か1人に負担が集中したりなど、スムーズに行かない場合もあります。

 

ここからは相続登記の過料を防ぐ方法を3つ紹介します。

 

【①「3年以内に登記できない正当理由」があればセーフ】

まず1つ目として、そもそも3年以内に登記できない正当な理由があればOKです。

 

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例:

●相続登記を放置したために相続人が極めて多数にのぼり、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する

●遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている

●申請義務を負う相続人自身に重病等の事情がある

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上記のような「3年以内に登記できない正当理由」をきちんと説明できれば、10万円以下の過料を防ぐことが可能です。

 

【②相続人申告登記をする】

2つ目は「相続人申告登記」といって、遺産分割協議がまとまらなくて登記できない場合に、自らが相続人であることを申告する制度です。相続人申告登記をすると、登記簿上には申し出た相続人の氏名・住所が記録されます。

 

相続人申告登記をする際は、法定相続分割合の確定は不要であり、相続人の範囲の調査も必要ありません。申告時の添付書類としては、申し出をする人が確かに被相続人の相続人であることがわかる「戸籍謄本」のみでOKです。

 

相続人のうち1人からでも申告可能ですので、遺産分割で揉めていて他の相続人が手続きをしてくれず、このまま放置すれば過料が発生してしまうかもしれないと心配な場合には、自分の分だけ相続人申告登記をしておくことで過料を免れることができます。

 

また、相続登記をするときは登録免許税を納付しなければなりませんが、相続人申告登記については、登録免許税のような申告費用はかかりません。

 

ただしデメリットとして考えられるものもあります。相続人申告登記によって登記簿上に相続人の住所氏名が登記されることで市町村に「この人が相続人だ」と知られるため、固定資産税の請求が届く可能性があります。また、相続人であることが対外的に周知されるので、業者から声をかけられる可能性もあります。

 

また、相続人申告登記は、法務局側に相続人の1人を知らしめるためだけの手続きであり、あくまで暫定的な登記です。いずれは相続登記をする必要があるということにご留意ください。

 

【③遺言書を作成しておく(※まだ相続が発生していないケース限定)】

上記2つは過料を防ぐ方法として法務省HPでも公開されている情報ですが、司法書士としてはもう1つ、遺言書を作成しておくことも検討しておいてほしいと思います。

 

遺言書作成は被相続人による生前の相続対策なので、すでに相続が発生している方には使えない選択肢です。しかし、遺言書を作成しておけば相続人全員による遺産分割協議は不要で、あらかじめ定めておいた遺言執行者が手続きできるようになるため、迅速な相続登記が可能になります。

 

相続登記の義務化を見据えて今から遺言書を書いておくというのは非常に重要な選択肢だと思いますので、ぜひ頭の中に入れておいてください。

困ったら司法書士に相談するのがおすすめ

以上、今回は相続登記義務化後の過料について解説しました。

 

相続登記は2024年4月1日から義務化され、相続が発生したことを知った日から3年以内(2024年4月1日以前の相続不動産は2027年4月1日まで)に相続登記をしないと10万円以下の過料を課される可能性があります。

 

相続が発生したものの面倒で相続登記をしていなかったり、何らかの事情で相続登記ができなかったり、あるいは将来の相続に不安を感じる方もいるでしょう。そんなときは一度お近くの司法書士事務所に相談することをおすすめします。きっと解決の糸口が見つかりますよ。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

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