2-4.フィリピン
フィリピン経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により、2022年は実質GDPが前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)と好調だったが、2023年4-6月期の成長率は前年同期比+4.3%(1-3月期:同+6.4%)と低下し、過去2年間の+6%以上の高成長から鈍化した(図表12)。
4-6月期は内需の鈍化が景気減速に繋がった。GDPの約7割を占める民間消費(同+5.5%)は雇用環境の改善や海外就労者の送金額の増加を支えに底堅く推移したが、物価高と金融引き締め策(累計利上げ幅4.25%)に加え、前年同月の大統領選挙実施の反動減やリベンジ消費の一巡により前期の同+6.4%から鈍化した。また金利高による投資の鈍化(前年同期比+3.9%)や政府支出の縮小(同▲7.1%)も成長の押し下げ要因となった。
外需は入国規制の緩和により外国人観光客数がコロナ禍前の6割強の水準まで回復するなどサービス輸出(同+9.6%)が好調だったが、海外経済の減速により電子部品(同+2.1%)や農産品(同▲25.1%)など主要輸出品の出荷が低調で財貨輸出(同▲0.9%)が引き続き減少した。
先行きのフィリピン経済は、年内は内外需の回復に時間がかかり景気の伸び悩みが続くと予想する。外需は、中国の経済再開に伴う中国人観光客の増加によりサービス輸出の増加が続くものの、世界経済の減速により財貨輸出が停滞するだろう。しかし、輸入も内需の鈍化により伸び悩むことで、外需の成長率への影響は限定的となりそうだ。
内需は引き続き積極的な金融引き締めの累積効果やペントアップ需要の一巡により成長ペースが緩やかなものとなるだろう。もっとも今後の更なるインフレ鈍化や今年7月のマニラ首都圏の最低賃金引き上げ(非農業部門の上昇率+7.0%)により家計の実質所得の目減りが和らぐと共に、観光関連産業の持続的な回復により安定した雇用環境が続くだろう。更に24年度政府予算案で前年度比+15%となった大型インフラ整備計画が追い風となり、消費と投資は底堅い成長が続くものとみられる。
金融政策はフィリピン中銀が昨年5月に金融引き締めに舵を切り、政策金利(翌日物借入金利)を過去最低の2.0%から6.25%まで引き上げてきたが、今年5月の会合から据え置かれている(図表13)。
8月の消費者物価上昇率は前年同月比+5.3%となり、今年1月の同+8.7%をピークに低下してきたが、先行きのインフレ率は食品高により一時高止まりするが、金融引き締めの影響により再び低下して年末には中銀の物価目標圏内(+2~4%)に収まるだろう。従って、フィリピン中銀は年内まで現行の金融政策を据え置くが、来年は米国の利下げ転換を機に段階的な利下げを実施すると予想する。
実質GDP成長率は2023年が+5.2%(2022年:+7.6%)と低下するが、2024年が+5.9%に上昇すると予想する。
2-5.ベトナム
ベトナム経済は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+4.1%(1-3月期:同+3.3%)となり、2四半期連続で低成長が続いた(図表14)。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化により、通年の成長率が前年比+8.0%(2021年:同+2.6%)と大きく上昇したが、現在は輸出の落ち込みにより貿易依存度の高いベトナム経済の成長ペースが減速している
4-6月期の景気減速は製造業の悪化した影響が大きい。世界的なインフレと金利高の影響で海外経済が減速したため、主要工業品である電話や電気機器、繊維製品などの財貨輸出が落ち込み、製造業(同+1.2%)が緩慢な成長にとどまった。また昨年の大幅利上げをきっかけとする不動産不況により不動産業(同▲0.9%)も低迷した。
一方、サービス業(同+6.1%)は堅調な伸びを維持して製造業の落ち込みを補った。外国人観光客数の増加による観光関連産業の回復やインフレ鈍化に伴う家計の実質購買力の向上を受けて、文化スポーツ(同+11.4%)や卸売・小売業(同+9.0%)、宿泊・飲食業(同+7.7%)、運輸・倉庫業(同+7.7%)が好調だった。また建設業(同+7.1%)はベトナム政府が執行の遅れていた公共投資予算(2023年:前年比+23%増)を加速させて回復した。
先行きのベトナム経済は、2023年後半は財政・金融政策により持ち直しの動きが続くと予想する。政府は公共投資の執行加速に加え、付加価値税率と国産自動車登録料の引き下げ、観光促進策などの景気刺激策を実施しているほか、短期的にはベトナム中銀の追加利下げも予想される。今後は不動産・建設業が回復し、また観光業関連産業をはじめとしたサービス業の持続的な回復が続くだろう。
製造業は内需拡大を受けて上向くものの、年内は輸出の停滞により限定的な回復にとどまるだろう。しかしながら、多国籍企業のサプライチェーンを多様化する動きにより、1-8月累計の海外直接投資(FDI)の認可額は前年同期比+8.2%とプラス転化しており、製造業の生産能力は今後増加するものとみられる。2024年は輸出の回復を追い風に製造業が復調して景気の牽引役となるだろう。
雇用・所得環境の改善により消費需要が増加して、サービス業も堅調を維持すると予想する。
金融政策は、ベトナム中銀が昨年9月と10月にそれぞれ+1%(累計+2%)の利上げを実施したが、景気減速を受けて今年3月から4ヵ月連続で政策金利を引き下げている(公定歩合▲1.5%引下げ、リファイナンスレート▲1.5%引下げ)(図表15)。8月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.0%と、政府目標の+4.5%を下回っており金融緩和の余地がある。中銀は景気回復を優先して追加利下げを実施し、その後はエルニーニョ現象による食品価格の高騰や電気料金引き上げによるインフレリスクに注視しつつ、政策金利を据え置くと予想する。
実質GDP成長率は、輸出低迷により製造業が鈍化して2023年が+4.7%(2022年:+8.0%)と低下して政府の成長目標(約+6.5%)を下回り、2024年が+6.2%まで上昇すると予想する。
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