(※写真はイメージです/PIXTA)

ひとり暮らしの母親の高齢者施設への入所が決まり、空き家になってしまった実家。子どもたちには自宅があり、空き家をどうするか悩んでいましたが、母親の決断により、あっという間に解決することになりました。どのような方法をとったのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

母、高齢者施設へ…空き家になった自宅をどうする?

今回の相談者は、50代会社員の岡田さんです。老人ホームに入った母親所有の自宅について相談があると、筆者の事務所を訪れました。

 

岡田さんの母親は、10年前に父親が亡くなってからずっと、自宅でひとり暮らしをしてきました。子どもは長女の岡田さんと、二女の妹の2人ですが、いずれも結婚して実家を離れています。母親は80代を過ぎて足腰が弱ってしまったことから、現在では、高齢者住宅に住み替えています。認知症の兆候はなく、足腰の問題以外の健康不安はないそうです。

 

「母が暮らしていた実家が空き家になってしまって。母の荷物は置いてありますが、今後再び、高齢者住宅から戻ってひとり暮らしができるとは思えません。あの家をどうしたらいいのか…」

 

こういった相談は、近年とくに増加傾向にあります。

自宅をお得に売却し、譲渡税負担を減らす

岡田さんも妹も、それぞれ隣県に自宅を保有しています。これまで自分の両親とは同居しておらず、また、実家を相続してそこに暮らすという選択肢もありません。

 

「母も〈いらないなら売って2人で分ければいいわよ〉といっています。母が老人ホームに移ってもうじき1年ですし、あのまま放置しておくのも…と思っておりまして」

 

すでに空き家になって1年という岡田さんの話を聞き、筆者の事務所の提携先の税理士は、居住用財産の3,000万円控除の活用を提案しました。

 

これは、高齢者住宅に移ってから3年以内であれば、自宅を売却する際に譲渡益の3,000万円を控除してもらえる特例で、約600万円の譲渡税の負担を減らせるというものです。

 

この期限を知っているかどうかで、手元に残せる現金が変わってきます。自宅を売却するなら、母親の意思確認ができるうちに、母親が契約して売却してしまうことが得策だといえます。

 

税理士の説明を聞いた岡田さんは、

 

「ありがとうございます。母と妹にも相談してみて、母には売却の決断をしてもらおうと思います」

 

といって、いったんお帰りになりました。

「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」

マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があり、これを「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。

 

国税庁のウェブサイト「マイホームを売ったときの特例」では、下記のように説明されています。

 

特例の適用を受けるための要件

 

(1)自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

 

(注)住んでいた家屋または住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の2つの要件すべてに当てはまることが必要です。

 

イ その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

 

ロ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。

 

(2)売った年の前年および前々年にこの特例(「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」によりこの特例の適用を受けている場合を除きます。)またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。

 

(3)売った年、その前年および前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと。

 

(4)売った家屋や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。

 

(5)災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。

 

(6)売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。

 

特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

 

※(特定増改築等)住宅借入金等特別控除または認定住宅新築等特別税額控除については、入居した年、その前年または前々年に、このマイホームを売ったときの特例の適用を受けた場合には、その適用を受けることはできません。

 

また、入居した年の翌年から3年目までのいずれかの年中に、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の対象となる資産以外の資産を譲渡し、この特例の適用を受ける場合にも、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできません。

 

適用除外

 

このマイホームを売ったときの特例は、次のような家屋には適用されません。

 

(1)この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋

 

(2)居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋

 

(3)別荘などのように主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋

「お母さん、家をお得に売る方法があるの」「なにそれ、売るわ!」

岡田さんの母親は、まだ元気とはいえ、要介護1の認定を受けていました。高齢者住宅に移ったこと、料理や買い物、掃除といった日常生活のサポートは受けられますが、不動産やお金の管理が大変になりつつありました。

 

岡田さんは、母親と妹に、税理士からからのアドバイスを伝え、高齢者住宅に住み替えてから3年以内に、自宅として住んでいた母親が自分で売却するとお得になると説明したところ、2人ともすぐ納得し、母親は売却を即決したとのことでした。

 

「帰ってからすぐ、税理士の先生のお話を妹に伝えて、次の休日、すぐ2人で母のところに行ったんです。母に説明したら〈なにそれ、すごくいいじゃない。いますぐ売るわ!〉と。母はとても合理的な人なので…」

 

岡田さんは笑いながら話してくれました。

 

この売却は筆者の事務所がサポートしましたが、65坪と広い自宅は、すぐに購入希望の会社が現れ、とんとん拍子に話が進みました。

 

岡田さんの母親の自宅は築50年を超えていたことから、売却の際には解体して更地にするのが一般的ですが、買主の合意が得られると、現状のままの引き渡しも可能です。

 

その場合、中に残った荷物はすべて専門業過に引き取ってもらい、室内を空っぽにしておく必要がありますが、建物自体はそのまま引き渡します。場合によっては、解体費を差し引いた売買価格になることもあるものの、解体のための日数や立ち合い等の手間が省け、得策だといえます。

 

なお、測量は売主負担ですることが原則で、隣地との境界確認を済ませ、越境の問題などもないところで買主に引き渡すことになります。

所有の母親の意思確認は必須

今回、岡田さんの母親が自宅の所有者であり、売却の当事者なので、契約に立会い、サインをしてスタートとなりましたが、残金決済のときには岡田さんが母親の委任を受け、代理で手続きが完了することとなりました。司法書士が事前に母親と面談し、売却の意思確認を取っていたことから、事務的な作業については、委任を受けた岡田さんが担当したということです。

 

「懐かしい実家は売却してなくなってしまいましたが、両親が頑張って購入したあの家がまとまったお金になりました」

 

購入してから50年以上という古い家ですが、売却価格は購入価格の数倍となり、岡田さんの母親は非常に喜ばれたそうです。

 

人生100年時代、高齢者住宅の費用もまだまだ必要だと思われます。

 

「家が売れたことで、母親の生活に必要なお金の不安がなくなりました。私も妹も、本当に安心しました」

 

岡田さんは最後の打ち合わせの席で、とても喜んでくれました。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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