23年2月にも逮捕者が…本当にいる「脱税思考の税理士」
『数十社に脱税スキーム指南で報酬受領か、容疑で元税理士逮捕』。これは2023年2月11日の産経新聞に載っていた事件です。
会社などでは、売上から経費を差し引き、残ったものが利益になります。その利益に対して法人税がかかるのですが、利益が高ければ高いほど税金は高くなります。ですから、税金を払いたくない人たちからすると利益を下げたいのです。
利益を下げるには、売上を下げる、もしくは経費を水増しするといった手口が使われるのですが、本件で行われていたのは後者です。シンガポールなどの海外法人に経費を払ったように装い、架空の支払手数料などを計上していました。これにより利益がぐっと下がるので、法人税が圧縮された…という脱税スキームを数十社に指南していたとのことです。
検索すると、2023年9月現在も「財産管理はシンガポールへ」と書かれたサイトが出てきます。サイトには「事業投資、金融投資、不動産投資とそれらのリスクに関する情報を提供するグローバルリーダーになるべく、…(略)…」といろいろと書いてありますが、脱税のリスクは考えていなかったのかな?とツッコミどころ満載です。
「経費水増しで脱税⇒浮いたお金で高級腕時計購入」という手口
本件の脱税スキームでは、まずシンガポールの海外法人に対し、役務提供のない架空の手数料や、研修を行ったかのように見せた研修費などの架空の経費を送金します。しかし、脱税したい会社からすると“払いっぱなし”の状態では意味がありませんので、送金したお金の大半を、複数の海外法人を経由して現金で返還させていました。振込みで戻させるとバレてしまいますからね。とはいえ、脱税資金(税金を払わずに残ったお金)が大きければ大きいほど保管場所に困るため、高級腕時計などを購入していました。
余談ですが、脱税資金のことを「タマリ」と呼びます。例えば、自社の法人税がどれくらいかをわかっていても、払いたくないので架空の経費を計上するなどした、いわゆる脱税を行ったとします。するとそのタマリは、現金であったり、不動産になったり、誰かの口座に入っていたり、もしくは貸金庫だったりといろいろな場所へ行くのですが、最近は腕時計に変えるパターンが流行っています。一部の高級腕時計は非常に高騰していて、腕時計投資という言葉が出てきているくらいなのですが、それが脱税資金を隠すのにも最適と考えられているようです。現金のまま保管するのはかさばりますし、盗難のリスクもありますからね。
腕時計以外に不動産を買うという選択肢も考えられます。しかし脱税したい会社にとっては、不動産を購入すると取得できるようになる「登記簿謄本」が厄介です。
登記簿謄本には表題部・甲区・乙区という項目があります。乙区には“この物件を買うにあたって、誰から借りました”ということを示す「抵当権」が記載されるのですが、抵当権の部分に何も記載がないと「現金一括払いで買った」という証明になります。未記載だと「あれ、税金を払っていないのに不動産を買うお金があるのはおかしいよな」と違和感を抱かれてしまいます。かとってローンで買おうにも、そもそもきちんと税金を払っていないとローンは組めません。ですからタマリを不動産に換えるのは難しいのです。
また、高級車という選択肢も考えられそうですが、目立つので税務署に目をつけられやすいのではないかと思います。他にはクラブやキャバクラで豪遊して、タマリをまさにシャンパンの泡にして消すという選択肢もありそうですが、全額を使うのは難しいでしょう。
以上のような背景もあって、本件のようにタマリを時計などの資産に換えるという手口が最近すごく流行っているのではないかなと思います。
税金を減らすには、脱税でなく「節税」を教えてくれる税理士を
安易な脱税は身を滅ぼします。脱税で報道され、ネットで記事などが掲載されるとずっと残ってしまいます。会社を経営するうえでは、取引でリーガルチェックを受けたときや、融資の際に銀行側で調査をされたときなど、すぐに過去の脱税が発見されてしまいます。脱税していた会社と付き合えるか、お金を貸せるかというとやはりできませんよね。長く企業経営していくことを考えると脱税は自らを滅ぼす行為です。
脱税とは怖いもので、麻薬と一緒で一度手を染めると癖になりやすいと思います。多額の税金を納めるのは誰しもしんどいことですから、計画的な節税と資金計画(私たちは税金のコントロールと呼んでいます)が重要です。そのためには、やはり良い税理士と付き合うことが大事です。
「脱税」は絶対にしてはいけません。納税を嫌がるだけではビジネスは大きくなりませんし、脱税はバレれば会社経営に一生ものの傷を残します。
とはいえ、記事冒頭で紹介したような「シンガポールで…」などと鼻息荒く脱税の指導をしている人がいることも事実ですので、ご注意ください。失うもののほうが大きい可能性があります。
松本 崇宏
税理士法人松本 代表税理士
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本
税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計1000件以上。一般業種より税務調査が厳しいと言われる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。
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