いらない土地を放棄できる「国の制度」も、あるにはあるが…
2023年4月27日から施行された「相続土地国庫帰属制度」は、相続した不要な土地を手放し、国庫に帰属させられるという制度ですが、いろいろな要件があって使いづらい部分があることも事実です。
そこで本記事では、相続土地国庫帰属制度を使わずに「いらない不動産」を放棄する方法を3つ紹介します。
①相続放棄をする
まず1つ目は「相続放棄をする」という方法です。相続したことを知ってから3ヵ月以内であれば、相続放棄によって相続権そのものを手放すという形で、いらない不動産を放棄することができます。ただし適用できるのは「3ヵ月以内」と短く、また、いらない不動産だけでなくすべての遺産を放棄しなければなりません。たとえば相続財産のなかに欲しい不動産や現預金、有価証券などがある場合も全部放棄することになりますのでご注意ください。
また、相続人全員が相続放棄をした場合は不動産の管理責任の問題が残ります。相続権がなくとも、相続財産管理人に管理権を引き継ぐまでは管理責任が残るという点にも注意しましょう。
<ポイント>
●相続したことを知ってから3ヵ月以内であれば使用可。
●いらない不動産以外にも、すべての不動産を放棄しなければならない。
●相続人全員が相続放棄をした場合、管理責任問題が生じる。
②共有持分の放棄
2つ目は「共有持分の放棄」です。これは対象不動産が共有名義の場合にのみ使用できる方法です。ちょっと難しいのですが、まずは条文をご紹介します。
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【民法第255条】
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
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たとえば、ある1つの土地をAさん・Bさんが持っていた場合、Aさんが自分の持分を放棄すると、Aさんの持分の所有権はBさんのほうへ渡ります。しかも、共有持分の放棄は他の共有者の関与なしに単独でできるので、Aさんが放棄すると決めればその所有権は自動的にBさんのものになります。条文の「放棄した持分は他の共有者に帰属する」というのはこういうことです。
ただし、登記の名義を変更するには、持分が帰属した他の共有者の協力が必要になります。登記は原則、共同申請になるので、「権利を得る人」と「権利を失う人」の2人で申請しなければなりません。これは共有持分の放棄においても同じです。
ですので例に挙げたように、土地がAさん・Bさんの名義になっているなかでAさんが共有持分を放棄した場合、その土地の権利はBさんのもとへ移動しますが、実際に名義を変えるには、AさんとBさんとで“Aの持分をBに移動させる”という手続きを行うことになります。Aさんが単独で権利自体を放棄することはできますが、手続きをするにあたってはBさんにもお願いしなければなりません。
特に「いらない土地」を放棄するシチュエーションでは、AさんだけでなくBさんも「いらない」と思っているケースもあるでしょう。そういった場合にストレートにBさんの協力を得られるかどうかは気を付けなければなりません。Bさんが手続きに協力してくれない場合では、最悪は裁判上の手続きでBさんに権利を渡すという方法も取れますが、そこまでやるかどうかというところも含めて検討が必要です。
<ポイント>
●共有持分の放棄は他の共有者の関与なしに単独でできる。
●放棄した持分は他の共有者に帰属する。
●登記の名義を変更するには持分が帰属した他の共有者の協力が必要。
③不動産会社による負動産引き取りサービス
3つ目は「不動産会社による負動産引き取りサービス」を利用する方法です。インターネットで検索すると、不要な不動産(“負”動産)の引き取りを積極的に行っている不動産会社が見つかります。ただし、価値のない不動産(田舎の山林など)に関しては、費用を出さないと引き取ってもらえない場合もありますので要相談です。
また、注意しなければならないのは、相続したあとに不動産会社側からアプローチをかけてくる場合です。
相続登記をすると、法務局のほうで照会をかければ相続した物件を一覧で見ることができます。このような調べ方を用いて不動産会社からアプローチをかけてくる場合があるのですが、なかには「原野商法」などの詐欺まがいのことをする会社もあります。
原野商法とは、価値の低い原野や山林を「価値が上がりますよ」などと騙して売りつける悪徳商法です。負動産引き取りサービスの場面では、たとえば「田舎の山林を相続されましたよね、うちで引き取りますよ」というように声をかけておきながら、何だかんだで引き取り費用を払わされた挙句、別の「いらない不動産」の名義を取得させられるなどの被害が結構あります。特に高齢者が狙われやすく、筆者のもとにもたまに相談が来ます。
費用を払わされるわ、他のいらない不動産までなぜか自分のものにさせられるわ…ととんでもない事態になるも、不動産会社に話をしようにももう連絡がつかない。このような詐欺まがいのことをする不動産会社も存在しますので、不動産会社側からアプローチをかけてくる場合は特に注意してください。
<ポイント>
●ネット検索すると、不要な不動産(“負”動産)の引き取りを積極的に行っている不動産会社を見つけられる。
●価値がない不動産の場合(田舎の山林など)は有償でないと引き取ってもらえない。
●相続後に不動産会社からアプローチしてくる場合もあり、なかには原野商法等の詐欺まがいのことをする会社もある。
以上の3つが、相続土地国庫帰属制度を使わずに「いらない不動産」を放棄する方法です。ご参考になりましたら幸いです。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
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