(写真はイメージです/PIXTA)

国内金価格が史上最高値を更新し、歴史的な高騰を続けています。金価格高騰の背景にはどんな事情があるのでしょうか。本稿では、ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が金相場高騰の背景と展望について概観します。

2. 日銀金融政策(8月)

(日銀)現状維持(開催なし)
8月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったため会合は開催されず、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は、今月21日~22日にかけて開催される予定となっている。

 

そうした中、内田副総裁は8月2日に千葉県金融経済懇談会において「最近の金融経済情勢と金融政策運営」をテーマに講演を行った。

 

副総裁は、7月のYCC(長短金利操作)柔軟化について、「内外の経済・物価を巡る不確実性がきわめて高い中、上下双方向のリスクに機動的に対応しながら、粘り強く金融緩和を続けていくことを狙いとするもの」であって、「当然、出口を意識したものではない」と説明した。

 

YCCの枠組みについては、「(2%の)物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」継続すると約束している」が、「現在、まだ2%の目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っていないので、この基準に沿って、この枠組みを継続していく」と表明した。

 

YCCの枠内でのさらなる修正の可能性については、「(長期金利の上限キャップである)1%という基準というのは、少なくとも今の状況においてはかなり高いところに設定しているので、今の段階でそういうことは念頭には置いていない」と言及した。

 

一方、マイナス金利政策の解除に関しては、「短期政策金利を0.1%分だけ「引き上げる」ことを意味する」とした。

 

そのうえで、「その決断は、「実体経済面で需要を抑制することで、物価の上昇を防ぐことが適当」と判断するということ」、「マイナス金利を維持することで、「引き締めが遅れて、2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスク」の方を、より心配する状況になるということ」と、YCC撤廃よりもハードルが高いことを示唆し、「現在の経済・物価情勢からみると、そうした判断に至るまでにはまだ大きな距離がある」との認識を示した。

 

また、8月30日には田村審議委員が道東地域金融経済懇談会で挨拶を行った。同氏は「(物価目標の)実現に向けた不確実性も残る状況下、まだ、賃金や物価の動向を謙虚に見つめていくべき局面にあり、現時点においては、金融緩和を継続することが適当」とした。

 

同時に、「ようやくその(=物価目標の)実現がはっきりと視界に捉えられる状況になったと考えている」、「持続的・安定的な物価上昇の実現に向けた状況の見極めにはなお時間が必要だが、来年1~3月頃には、その時点の賃上げのモメンタムやそれまでに得られる年後半の物価動向などのデータから、解像度が一段と上がると期待している」と踏み込んだ発言を行ったのが印象的であった。

 

さらに、翌31日には中村審議委員が岐阜県金融経済懇談会で挨拶を行った。

 

同氏は、「賃金上昇を伴う物価上昇の形成には至っていない」、「2%の物価安定の目標達成に確信を持てる状況には至っていない」と物価情勢に対する慎重な姿勢を示したうえで、「販売価格の上昇が賃金上昇に繋がる前に金融引き締めに転換すれば、需要が抑制され、企業の「稼ぐ力」が再び低下しかねない」と金融引き締めに対しても否定的な見解を示した。

 

日銀の政策委員の中で、見解の温度差が目立つようになってきた印象を受ける。

 

(今後の予想)
7月のYCC柔軟化によって日銀が最大1%までの長期金利上昇余地を創出したことで、YCCにまつわる副作用(イールドカーブの歪み発生や債券市場における流動性の枯渇)は顕在化しづらくなったと考えられる。

 

一方で、植田日銀は金融政策の正常化を志向していることから、来春闘での比較的高い賃金上昇がデータとして確認できるようになり、多角的レビューで過去の政策の総括を終えた段階にあたる来年10月に正常化の第一段階となるYCCの撤廃(長期金利操作目標の撤廃)に踏み切ると予想する。

 

一方、マイナス金利政策については、上記の内田副総裁の発言などから、YCCの撤廃よりも解除条件が厳しいと考えられる。従って、来年秋にYCCを撤廃する際にもマイナス金利政策は現状のまま存置され、過度の金利上昇の抑制が図られると見ている。マイナス金利の解除は再来年以降と予想している。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年9月1日に公開したレポートを転載したものです。

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